【小説家同盟】泡沫

小説家同盟
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最高ランク : 15 , 更新: 2018/04/21 22:43:17

感動系になってるかどうかはわからないけど取り敢えず。

以前ちょこっとだけ載せた文芸部の方で完結させた小説載せておきますね!

同盟企画用、あとかなり長いので関係者以外は読まなくても大丈夫です!


____________



「おはよう、薫子」

「桂木さん」

大好きな声に名前を呼ばれて振り向くと、そこにはやっぱり大好きな人がいた。

スーツをすっきり着てわたしの目の前に立っているのは、桂木誠さん。パパの会社の同僚で、私の家の近所のマンションに住んでいる。パパととても仲が良くて、たまに家にご飯を食べに来てくれる。ママも彼に信頼を置いているようだった。小さい頃はわたしもよく遊んでもらったのを覚えている。

いつからか、彼が視界に入ると、わたしの世界はきらきら輝いていた。彼に触れている間だけは、自分も輝いている気がして。

気がして、ばかり。

わたしは憎かった。自分ばかり輝いている彼が。

そして同時に愛しかった。

つまるところ、わたしは彼に恋をしていたのだ。





駅までの道をふたりで歩く。

「日曜日なのに早いな。学校があるの?」

休日なのに制服姿のわたしを見て、彼が言った。

きらきらした世界の中心で、今日も彼は笑っている。

「違いますよ。友達と遊びに行くだけ。制服なんて女子高生のうちしか着られないし、たくさん着ておきたいの」

「JKブランドってやつか。知ってるよ」

そう言ってから、桂木さんは「若いな」と言って笑った。

本当はJKブランドなんてどうでもよかった。自分がいちばん可愛く見える姿で、彼に会いたいだけだった。

でも、制服を脱がなければ大人にはなれない。

制服を着るたびに、彼には追いつくことはできないのだと思い知らされた。

もう大人の彼と、まだ子供なわたし。

彼とわたしの間にある隔たりは決して、わたしに良い顔をしてはくれなかった。

わかっていた。彼にとってわたしの気持ちは、目の上のたんこぶでしかない。わかっていて、知らないふりをし続けた。自分勝手なわたしは、輝く彼とは裏腹に,どんどん醜くなっていく。

「じゃあ、こっちだから」

駅に着くと、桂木さんはそう言って手を振った。わたしも手を振り返す。彼が完全に見えなくなってしまうと、わたしは来た道を引き返した。

「友達と遊びに行く」なんて嘘だった。桂木さんに会うための口実だ。会いたかったから、用事も無いのにわざと外に出た。

桂木さんを好きになってから、こんなことばかりやっている気がする。

平日の朝は、少しでも桂木さんの顔が見たくて、わざと同じ時間に出るようにした。少しでも長く、桂木さんと一緒に」いたかった。

髪を切るときも洋服を選ぶときも、彼の好みを考えながら選んだ。でもそれはわたしの想像上の彼の好みであって、彼自身の本当の好みは訊けないままだ。せめて好きな女性芸能人でも訊ければいいのだが、不自然な気がしてしまい勇気が出ない。パパに頼むのは恥ずかしいからやめた。

少しでも彼の好みに近づきたくて、彼の特別になりたくて、わたしは必死だった。











ある日のことだった。

学校帰りに本屋へ寄っていたら、少しだけ帰りが遅くなってしまった。

電車を降りて駅のホームの階段を降りていると、よく知った背中が通路の角を曲がっていくのが見えた。

「桂木さん!」

まさか帰りが一緒になるなんて。後ろから肩をたたいて驚かせてみよう。

少しいたずら心が湧いたわたしは、駆け寄ることをやめてそっと後ろから近づくことにした。

高鳴る心臓をおさえて、同じように角を曲がったわたしは、桂木さんの背中を確認する。





「え……」





刹那。

世界は輝きを失った。

背筋を嫌な汗が伝った。

呼吸ができなくなった。

信じたくなかった。見間違いであってほしかった。わたしはきっと、桂木さんのことが好きすぎて、知らない人を桂木さんだと錯覚してしまったんだ。そう自分に言い聞かせた。

でも、そこにいたのは紛れもなくわたしが大好きな桂木さんだった。

桂木さんの隣には、若くて綺麗な女の人がいた。

きっと会社の人なんだろう。いかにも大人ってかんじで、子供のわたしなんかと比べものにならないくらい素敵な人だった。

心臓がぎゅっと掴まれた気がした。

私は彼を追いかける足を止めて、その場を去った。

これ以上わたし以外の女の人に笑顔を向ける彼を見ていられなかった。

どうして、わたしじゃないの。

指先が急速に冷えて、泣き出したくなった。

わたしが子供だから。女子高生だから。ひとりで生きていく力がないから。

桂木さんと仲良くなったのは、パパと桂木さんが友達だから。

共通の趣味や特技があるわけではない。そもそもわたしは桂木さんのことを何も知らない。

彼がわたしに興味がないこともわかっていた。それでも、もしかしたら、なんて思っていた。結局、そんなものは幻想だったのだ。











翌日の朝。なんとなく顔を合わせたくなくて、いつもより早めに家を出たのに、桂木さんと鉢合わせしてしまった。

「おはよう、薫子」

彼は、いつもと変わらない笑顔をわたしに向けて、いつもと変わらない挨拶をした。

「おはようございます。桂木さん」

「どうした、元気がないね」

顔をのぞき込まれて、わたしの胸は少しだけ高鳴った。それだけで、一度モノクロのなったはずの景色がまたきらきらと輝き出すのだから困ったものだ。

「今日は早いですね」

「うん、今日は少し寄る場所があるんだ。薫子こそ早いじゃないか」

「今日は、その。ええと、気分です」

あなたのせいだ、なんて言えなかった。わたしが元気がないのも、今日早く家を出ることにしたのも。結局、会ってしまったけれど。

本当はすべてわたしが悪いのだ。わたしが桂木さんのことを好きになってしまったから。彼に恋をしてしまったから。しかし、わたしの醜い心は何かのせいにしたくてたまらなかった。

なんだか余計に目を合わせづらくなってしまったわたしは、桂木さんの半歩後ろを無言で歩く。グレーチングを目で追っていると、桂木さんがふいに話し出した。

「昨日、職場の人と飲みに行ったんだ」

ちょうど考えていたことを切り出され、どきっとした。聞きたいけれど聞きたくない。心に靄がかかったみたいで気持ち悪い。

しかし、桂木さんの話は案外あっさりしたものだった。

「最初は二人だったんだけど、後から来るって社員が多くて結構な人数になってさ。帰るのも遅れちゃって、今日は寝不足だよ」

最初の二人って、やっぱりあの女の人だろうか。不安になるところもたくさんあるけれど、考えていたらきりがない。それでも、身構えるほどの話ではなくて、少し拍子抜けしてしまった。

「そうだったんですか。今日はゆっくり休んでくださいね」

「ありがとう」



桂木さんの笑顔を見て、また目の前が輝く。

なんだ、ただの付き合いだったのか。あの女の人と二人きりだったわけじゃないんだ。だってよく考えたら、桂木さんなんてパパと同い年だし、あんなに若くて綺麗な人があんなおじさん好きになるわけないもん。

自分のことを棚に上げ、わたしは都合の良い考えに持っていこうとする。

桂木さんと彼女は恋人同士なんかじゃない。

そう思ったのも束の間。



「桂木さん! おはようございます!」



突然、鈴のような声が聞こえて振り返ると、そこには綺麗な黒髪の女の人がいた。本の世界から飛び出してきたみたいな彼女は、わたしには目もくれず桂木さんに駆け寄った。

ああ、この人は昨日の女の人だ。桂木さんと一緒に歩いていた、あの。

そして、瞬時に理解した。この人も桂木さんのことが好きなのだと。

ずっと彼のことが好きだったからわかる。彼女の彼を見る瞳は、完全に恋をしているときのそれだ。

変わらない笑顔で「おはようございます」と返事をする桂木さんにも嫌気がさした。桂木さんとわたしは付き合っているわけではないのに、これでは八つ当たりだ。そんな自分も嫌になった。

暫く談笑する二人を眺めていると、女の人がわたしに漸く気づいた様子で、桂木さんに「この方は?」と訊いた。

「この子は賀上薫子だ。大介の娘だよ」

大介というのは、わたしのパパの名前だ。

「賀上薫子です」とわたしが挨拶すると、女の人はああ、と納得したように頷いた。

「萩原ミヤビです」

綺麗な黒髪を耳にかけながら、にっこり笑って彼女が言った。

「彼女はうちの部署で働いてるんだ。わりと近所に住んでるから、こうして一緒になるのも初めてじゃない」

桂木さんは、わたしにそう付け足した。初耳だ。わたしが知らなかっただけで、ミヤビさんと桂木さんは前からこうして会うことがあったんだ。

「わたし、先に学校行きますね。遅れちゃう」

いたたまれなくなって、わたしは先を歩き出す。

「気をつけてな」背後から桂木さんの声がする。

「行ってきます、桂木さん」

わたしは振り返って口角を上げた。今のわたしはどんな顔をしているだろうか。しっかり笑えているだろうか。いや、絶対に笑えてなんかいない。きっと酷い顔をしている。







桂木さんとミヤビさんのことを知ってから、数ヶ月が経過した。

わたしはあの日、ミヤビさんに会って以来、桂木さんとまともに顔を合わせていなかった。

桂木さんと話したかった。前みたいに、何も知らないわたしに戻りたかった。

「最近薫子とあまり話さないって、あいつが寂しがってたぞ」

パパがそう言っても、わたしは桂木さんと顔を合わせなかった。

だって、つらすぎる。

今桂木さんを見たら、確実にわたしは泣いてしまうだろう。

だから、彼の変化に気づくこともできなかった。



「薫子。桂木さんね、結婚するんだって」



それは、ママから聞いたことだった。

「薫子もお世話になっているんだし、今度会ったらおめでとうくらい言っておきなさいね」

何も知らないママはわたしにそう言ったまま台所へ向かっていった。

なんだか若い方だったわよ、と言い残して。

ミヤビさんだ、と思った。

頭を鈍器で殴られたみたいだった。

ママの言葉が頭の中でループする。

桂木さん、結婚するんだって。

頭が真っ白になった。



こんなことなら、伝えておけばよかった。怖がっていないで言っておくべきだった。もっともっと、桂木さんに会っておけばよかった。

馬鹿なわたし。

馬鹿なわたし。

もう、彼に好きだと伝えることはできない。そんなことをしたらきっと、彼はもっと困ってしまう。

涙が出た。







翌日、久しぶりに桂木さんと顔を合わせた。

桂木さんの笑顔は変わることなく、わたしの好きな笑顔のままだった。

いつだったか、彼がわたしにしてくれた話がある。

「アントワネットは、最後の瞬間まで誇り高いお姫様だったんだ。どこかの物語のお姫様も、そんな彼女を尊敬していた。薫子も、どんなときでも胸を張っている、強い女の子でいられるといいね」

わたしはその通りになりたいと思った。彼が好きだったから。

でも、無理だった。

わたしはお姫様なんかじゃない。どこにでもいる普通の女子高生だ。

桂木さんの指に光る銀色を見たとき、強くそう思った。

「おめでとうございます」

今までで、一番気持ちのこもっていない「おめでとう」だった。

それでも彼は、「ありがとう」と笑った。

彼が踵を返す。

大好きな背中が遠ざかっていく。

世界は、もう輝いてくれない。



かえして、わたしの、キラキラ。

蒼空


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切ない恋物語か、、、なるほど、、、
_φ( ̄ー ̄ )すごいよかった!


元曼珠沙華
2018/04/21 22:50:38 違反報告 リンク


華>>ありがとう〜!至らない点もたくさんあると思うから、まだまだ頑張るね💪

蒼空
2018/04/22 6:02:05 違反報告 リンク


おお! 期待してる〜♪

元曼珠沙華
2018/04/22 7:22:04 違反報告 リンク


すごい…!
切ない系って良いよね~…
時間を忘れて読んでしまう(笑)


瑠卯@ペア画中
2018/04/23 7:24:24 違反報告 リンク


華>>精進します💪

瑠卯>>そ、そうかな?ありがとう😭嬉しい😭


蒼空
2018/04/24 11:09:54 違反報告 リンク


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友達募集🤝+α
2018/06/04 7:48:27 蒼空 8 4



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