Trick or Treat!【短編小説】
バトン 短編 ハロウィン最高ランク : 9 , 更新: 2017/10/31 10:53:50
少女にとって、ハロウィンもクリスマスも、普通の日に過ぎなかった。少女の家は貧乏で、少女は学校にも行かず、両親と自分のために毎日働いていたのである。
少女の両親は人間の良心が全て消え失せたかのように残酷だった。働き続ける少女に、いたわりの言葉も、感謝の言葉も、謝罪の言葉もなく、ただ自分のいいように働かせていたのだ。まるで人形扱い。少女は、いつも身体も心もぼろぼろなのである。
つまり、少女には行事というものが産まれたときからなく、ただ同じような毎日が過ぎていくだけ。少女にとって、今日が何月何日何曜日かなんてどうでもいいことだった。それがいつであろうと、働き続けることに変わりはなかったから。
いつものように、少女は朝早くから働き始める。貧しい少女は、もちろん靴など買ってもらえず、裸足のまま外に出た。そろそろ冬が来るらしく、風が冷たい。このままでは風邪を引きそうだが、休むわけにもいかない。
冬の「朝早く」は暗い。夜と同じように。夏の「朝早く」なら朝日が差してとても明るいのに。外が暗いと、いつもよりももっと気分が暗くなる気がする。今日もまた、暗くなるまで働かなければならないと思うと、少女は憂鬱でならなかった。
「Trick or Treat! そこの君、お菓子をくれなきゃ悪戯するよ!」
やっと明るくなってきた頃、不意に少女の後ろから声がした。声変わり前の、高い少年の声だった。少女は声の主を探して後ろを振り向く。そこに立っていたのは、どうも場違いな少年。
栗色の癖っ毛に、碧眼。背丈は少女と同じくらいだろうか。紫色のリボンがついた、黒いとんがり帽子に、コウモリのようなマント。ハーフパンツ、白い靴下。右手には、星の飾りがついた杖のようなものを持っている。明らかに、同じ身分ではなく、高い身分の人間であることを少女は悟った。
「⋯⋯どなたですか?」
いくら少年とはいえ、高い身分の人だ。無礼な態度はとってはいけない。誰からも、礼儀作法を学んだことがなかった少女は、出来る限り丁寧な言い方で少年に尋ねた。少年は、白い歯を見せてニッコリと笑った。
「僕は魔法使いなんだ! ねぇ、お菓子をくれなきゃ悪戯するよ」
少年ーー魔法使いは、星のついた杖を小さくくるりと回してそう言った。お菓子をくれなきゃ、とは言うものの、こんな身なりの人間にお菓子なんてあるわけないじゃない。高い身分の方って、常識がないのかしら。少女はそうとさえ思ったほどである。
「お菓子なんて⋯⋯ないわ」
魔法使いは、その答えを見透していたかのようにもう一度、今度はニヤッと笑う。まるで、チェシャ猫のように。まるで、悪戯を仕掛けた悪ガキのように。
「じゃあ悪戯だね!」
星の杖を一振り。特に何も起こらない。唯一の自慢の真っ直ぐな髪の毛が変になってしまうとか、服がもっとボロボロになるとか、頭上から何か落ちてくるとか、そんな悪戯を想像していた少女は、拍子抜け。魔法使いはまたまた笑う。
「僕は滅多に魔法は使わないんだよ」
ならばどうやって悪戯するのか。
「駄目よ、魔法使いさん。ここから逃げるなんて許されると思っているの?」
「僕が魔法で許されるようにしてあげる」
「⋯⋯そんなことしたら親に心配されるわ」
「本当に?」
ーー本当に?
魔法使いの言葉が、頭の中でこだまする。本当に? 本当に、私がここからいなくなったら、親は心配するのかしら。夜は酒をがぶ飲みして、酔っ払って眠ってしまうような親である。少女一人がいなくなっても、別に気にしないのではないか? 少女はそんなことを考え始めていた。
「ねぇ、僕と一緒に行こうよ! こんな苦しい世界飛び出してさ! きっと楽しいよ」
魔法使いは両手を広げて言った。
「僕は君に悪戯したいわけじゃないよ。お菓子を与えてくれない君の両親に悪戯するんだ! 娘を、魔法使いに取られるっていう悪戯をね!」
少女は、現実よりも魔法を選んだ。
☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆
僕は魔法使いなんかじゃない。もちろん魔法も使えない。
ただ、彼女を幸せにしてあげたかったんだ。
だから、僕は。
あんな場所から彼女を逃してあげるっていう、悪戯という名の魔法を掛けたんだ。
☆
ハロウィン要素ェ⋯⋯
少年ェ。イケメソ少年でしたね。
二代目北斎
2017/10/31 10:58:14 違反報告 リンク
ニャンコ先生⇒ただのイケメンです( ˘ω˘ )
妃有栖
2017/10/31 11:01:41 違反報告 リンク
少年に一言
惚れた(
それにしても酷い親だな〜…
きなこもち
2017/11/01 6:27:08 違反報告 リンク
きなこ⇒まじか(笑)
まぁ少年はただのイケメンですから( ˘ω˘ )
児童労働とかは現在でも残っているらしい⋯⋯
ハロウィンくらい幸せになってほしいものだよね、子どもなんだから。
妃有栖
2017/11/01 8:16:39 違反報告 リンク
コメントをするにはログインが必要です : ログイン
〚必読ってわけじゃないけど〛辞めます
2018/07/30 10:12:10 妃有栖 1 1
まぁ私の投稿がランキングに載るかなんて知ったこっちゃないですが、ランキングに...
ちょっと好きな本の話してもいい?
2018/04/22 10:02:32 妃有栖 2 8
3日ぶりくらい……?お久しぶりですかね? 今日は私の好きな本を布教するためにきま...
- ログイン
- 投稿ランキング
-
1.
春眠不覺曉 by.白河青蓮
2024/04/18 2:37:33 -
2.
拡散&やること無かったからバトン((( by.愛華@軽めだけど同担拒否つらみ
2024/04/17 8:20:42 -
3.
把握会回答~!! by.Rion@相方:蒼音
2024/04/17 8:49:26 -
4.
✫ 感想と絵(ネタバレあり) by.♔
2024/04/17 7:55:37 -
5.
✿ 𝙃𝘽𝘿 ✿ by.える。
2024/04/17 21:48:51 - もっとみる
- ユーザランキング
-
1.
♔
690 Point -
2.
小森♠︎
486 Point -
3.
わわわねる@りなとペア画
454 Point - もっとみる