神【短編小説】

小説 短編 創作
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最高ランク : 37 , 更新: 2017/11/02 10:23:44

僕は神だ。
全知全能、十全十美。他のどんな人間よりも賢く、偉い。他のどんな人間よりも未来を見透している。僕に歯向かう人間など存在しない。何故なら僕は神だから。

やあやあ、愚かな人間達。今日は特別に僕ーー神のことを教えてあげようか。実は神は、天国にいるわけでも、長い白髭を生やしたお爺さんでも、白い服を着ているわけでも、木製の杖を持っているわけでもない。ただ、普通の人間のような見た目で、普通の人間のようにこの世界に存在しているのだ。

神だって学校は行くし、会社にも勤める。それでもしかし、神は神なのだ。この世に生まれたその時から、神なのである。

もちろん、神には親がいる。親戚がいる。普通の人間と同じなのだから、歳を取れば死ぬ。神が死んだその瞬間、新たな神が選ばれて、また新しい神が生まれる。

神を生んだ親にも、神が神であることは知らない。知っているのは神本人のみなのだ。そうして神は、誰にも知られぬまま神として生まれ、神として生き、神として死んでいく。

そして、目出度く今世界の神として選ばれたのが僕だったのだ。

神頼みをする人間は馬鹿だと思った。どうせ、何かを願って手を合わせたところで、何も変わりやしないのに。運命など最初から決まっているのだ。成功するという運命ならば成功するし、失敗するという運命ならば失敗する。ただそれだけのことだ。

神はいる。だが、運命を変えたり決めたりすることは出来ない。ただ、他の人間よりも賢く、偉く生きるだけなのだ。

ーー分かったかね? 平民諸君。



死が、いつも近くにあるような気がする。
目の前で見た、若い男の交通事故。仲良くしてくれていた近所のお姉さんの病死。公園に捨てられた犬の餓死した姿。私は何度も、「死」というものを目にしてきた。

もう何年もこの世界に存在しているような気がするが、ここまで死に近い者もなかなか居ないだろう。これでは死神ではないか。いやいや、それは断じてない。はずだ。

持ち前の目つきの悪さと、長く伸ばした銀髪。鏡の中には、いつものようにガラの悪い私の姿があった。一度、迷子になった子どもを助けようと声を掛けたら、更に泣かせてしまい大騒ぎになったことすらある。まぁ、その大騒ぎのおかげでその子の母親が見つかり結果オーライ、というやつだったが。

いつものように、ジーパンに黒いジャケットを羽織って街に出る。こんな服装だから余計ガラが悪く見えるのかもしれないが、こんな服しか持っていないのだから仕方ない。

街は、やはりいろいろな「声」で溢れ返っていた。疲れた、面倒くさい、学校行きたくない。朝のこの時間は特に、負のオーラを持つ「声」で溢れていて嫌いだ。耳を塞ぎたくなる。疲れるのはこっちだっつの。

時折、死にたいだとかもう生きるのに疲れただとか。そんな声でさえ聞こえてくる。死にたいならどうぞご勝手に。こっちは迷惑してるんだよ。分かってる?



街を歩く。このすれ違う全ての人が、僕ーーイコール、神ーーを信仰し、敬い、神様仏様と崇める。なんて気持ちがいい! 素晴らしい!

助けてください。
受験に受かりますように。
どうかあの人が振り向いてくれますように。

人はどうでもいいことを神に頼むものだ。それでその願いが叶えば神様ありがとうとお礼を言うが、叶わなければ神様は私を見ていないのね、なんて言いやがる。なんて理不尽な。誰がお前なんか見てやるものか。

それに、くどいようだが、運命は最初から決まっているのだ。それを変えようったって上手くはいかない。どうせ失敗するのだから、最初から諦めていればいいのに。高望みするのだ、人間は。あぁ、面倒くさい。

「⋯⋯おっと」

前を向いて歩いていなかった。誰かにぶつかりそうになった瞬間、僕はひらりとそれを回避する。目の前にいたのは、銀髪で目つきの悪く、背の低い青年。全く、神様が歩いているというのに迷惑な。

青年は、もともと悪い目つきを、もっと悪くさせるかのように僕を鋭く睨みつける。おい、神に向かって失礼だぞ。なんて、相手は知らないのだろうけど。

僕の目をじっと見つめる。何だよ、と思ったが目をそらしても意味はないような気がして僕も彼を見つめたままだった。そして、青年は短くため息をついて、

「⋯⋯すまない」

と一言謝り、ポケットに手を突っ込んでその場を去った。何なんだ、あの男。

神に対して無礼なことをしていると、あいつは分からないのか! いや、あのタイプは無神論者かもしれない。そういう奴に対しては、僕はなんの力もない人間と同じだから何も言えない。

僕はちょっと機嫌を悪くしたが、すぐに頭から今の出来事を消し去り、また歩き始めた。



「⋯⋯おっと」

考えごとをしていたら、人にぶつかりそうになった。幸い、相手が身をかわしてくれたのでぶつからずに済んだが。

ぶつかりそうになった相手は、黒髪でつり目の男。歳は二十代くらいか。しかし童顔なので何歳なのか正確には分からない。私は謝ろうと彼の目を見つめた。

『全く、神様が歩いているというのに迷惑な』
『おい、神に向かって失礼だぞ』

そんな「声」が聞こえた。私の頭の中は、しばしの沈黙が続いていた。

ーー私はおよそ四六億年ほど前からここに存在している。この地球という星の進化と経過を今までずっと見てきた。どうやら、私は神と崇められる立場らしい。⋯⋯そんな立場などいらないから早く死にたい。

少々、飽きてきたのだ。人間はずっとこの地球を進化させ続けるが、私は何の進化もしない。退屈なままだ。すぐに時代は変わるし、ついていけなくなる。特に、最近の若者という奴には。

私は、人間と目を合わせるとその人間の考えていることが分かる。頭に浮かんでくるのだ。四六億年、人間の心の中というものを覗いて来たが、自分を神だと信じて疑わない、ある意味とても純粋な人間は久しぶりに見た。

何が、運命は最初から決まっている、だ。何が、運命を変えたり決めたりすることは出来ない、だ。その気になれば私だって、人間の運命を無理矢理捻じ曲げることぐらいできる。

そんなことも知らず、彼はこれからも自分を神だと信じ、そして運命は決まっていると言って人間を馬鹿にしていくのだろう。そう思うと、ため息が出た。

「⋯⋯すまない」

勝手に脳内を覗いてしまって。

運命は最初から決まっているのだとしたら、それはきっと彼が自分を神だと信じて生きるという運命のことだろう。何故って、彼は運命が決まっていると信じているのだから、自分が神として生きる運命を受け入れるのだからね。



自称・神様と、無気力系目つきの悪い銀髪青年、の姿をした神様のおはなし。

無気力系の神様は本物の神様です((
時間があれば今度続き書くかも。

妃有栖


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面白いw
黒髪の方の人がちょっと可哀想になってきた(


きなこもち
2017/11/04 7:44:55 違反報告 リンク


きなこ⇒うん、よく考えたらただのイタイ人だからね((

妃有栖
2017/11/04 8:11:27 違反報告 リンク


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