気怠げな朝

小説 短編
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鼻を掠める優しい朝食の匂い。俺は優しい朝霧に守られながら瞼を押し上げた。時刻は起床時間の百分前。あまりに早く目覚め過ぎた。かと言って再度暗闇に意識を落とそうものなら、確実に起床時刻を過ぎてしまうだろう。俺は彼女と分かち合っているベッドに手をつき、ゆっくりと起き上がった。まだ頭は寝惚けているらしく、目は霞んでいる。

携帯を立ち上げると数件のメッセージが来ていた。殆どが業務連絡。だが、二件だけは個人的な物だった。どちらも名前も知らない女。つまるところ愛人にも妾にもなれない浮気関係の友人だ。社会的には中々理解されないと思う。彼女には悪いが、俺は最低最悪の嘘を吐いていた。謝っても許されることではないだろう。

俺は携帯を持ってダイニングに向かう。勿論パスワードロックはかけているし、通知バナーが出ない様にはしている。即ち彼女は俺が浮気していることを知らないだろう。俺はそれを良いことに次々とそういう一期一会の関係を築いていた。ぺたぺたと床を裸足で歩いてダイニングに顔を出した。彼女は此方に背を向けて朝食を作っていた。

「おはよう、今日は早起きね。」
「おはよう、うん。そうなんよ、なんか目が覚めたんよ。」

彼女は此方を振り返って挨拶を返した。朝だというのに、きらきらと光る唇に色気が宿る。彼女は珍しく長い黒髪を結い上げていた。

「あら、今朝は肌寒かったからかしら。風邪をひかないように気をつけるのよ。」
「うん。」

彼女は曖昧に笑って手元の鍋に目を落とす。恐らく味噌汁を作っているのだろう。彼女の育った地方の所為でほんのりと魚介風味だ。俺はそんな彼女の味噌汁が好きだった。余談だが、今まで付き合った女性の味噌汁は十人十色だが、彼女の味噌汁が一番美味しい。

「座って。もうすぐ朝食が出来るわ。」
「分かった。」

彼女に言われて大人しくダイニングテーブルに着席する。並べられていく食器類は近くの家具量販店や、100円均一ショップ、ネットショップなどで手に入れた安さ重視の物。他の女みたいに気を張らないから楽だ。

鵯(ひよどり)


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