カイザー日記 6/5 あぁぁ

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約束の時間、そこに早紀さんは現れなかった。横浜駅西口東横線改札前。
来たのは・・・・・あのベルの女の人だった。
「あれ?カイザー君じゃない。」と声をかけてきた。
僕にはこの人が誰なのかもう分かってた。
「渡部さん。」
渡部さんは正体がバレてる事なんかとっくに承知してるようだった。
「あら、もうバレてた?早紀ちゃんもう言っちゃったんだ。」
僕は頷いた。
「ところで、早紀ちゃんは?一緒じゃないの?」
え?と僕は声をあげた。なんで早紀さんさんと会う事知ってるんですか?
「だって私、今日早紀ちゃんと会う約束してたのよ。昨日メールが来てさ。」
僕も来ましたよ。この時間、この場所にって。
「私の待ち合わせも同じよ。」
僕たちは顔を合わせた。何で?どうゆう事?いくら話しても見当がつかなかった。
早紀さんは何故こんな事を?僕と渡部さんを会わせる為?今更そんな必要が?
「本人に聞いてみましょう。」
渡部さんは携帯電話を取り出した。えーと早紀ちゃんはっと・・・・・そんな事を言いながら電話をかけた。
出ない。家に今誰もいないのかなぁ。渡部さんは呟いた。電話は諦めた。
「そうそう。この携帯ね、一度早紀ちゃんに貸してあげたのよ。まぁカイザー君には関係なかったけどね。」
そんな事より。早紀さんは来るのか?この時点で既に30分は待ち合わせ時間を過ぎてる。
もう少しだけ待ってみる事にした。
1時間。
早紀さんは来なかった。
渡部さんが言った。「ねぇ、こうなったら早紀ちゃんに直接会いにいかない?家、そんな遠くないし。」
行くことにした。
電車に乗ってる最中、渡部さんはこんな話をした。
「実はね、私どうしても今日早紀ちゃんに会いたいの。昨日のメールの内容がちょっと引っかかってて。
『今まで協力してくれて本当に感謝してます。おかげでようやく終われます。』だって。なんか変よね。」
僕は急激にこの前の早紀さんの言葉を思い出した。
「ここが、私の終着地。」

駅から岩本家まで、心なしか二人とも早歩きだった。着いた。インターホンを。押せ。鳴らせ。
ピンポーン。出ない。ピンポーン。出ない。ピンポーン。出ない。ピンポーン。出ない。
ドアをノック。トントン。返事ナシ。トントントン。返事ナシ。ドンドン。返事ナシ。ドンドンドン。返事ナシ。
ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン。
返事ナシ。
渡部さんがドアを引いた。開いた。カギがかかってない。入れる。すいません、誰かいませんか?
返事ナシ。早紀ちゃん、いるの?返事ナシ。早紀さん、居るなら返事して下さい。返事ナシ。
靴はある。たぶん早紀さんの。渡部さんと顔を見合わせる。頷いた。入りますよ。入った。岩本家へ。
叫んだ。早紀さん!誰もいない。早紀ちゃん!誰もいない。1階は静まり返ってる。誰も、いない。
早紀さんの部屋は2階だ。早紀さん。また叫んだ。早紀ちゃん。渡部さんも叫んだ。
早紀さん。2階へ。階段を駆け上がった。叫びながら。早紀さん。渡部さんも後ろに続いた。早紀ちゃん。
ドアが二つある。ドンドン。返事ナシ。ドアを引いた。ガチャガチャ。カギがかかってる。ガチャガチャガチャガチャ
開かない。なら、隣だ。早紀さん。叫んだ。早紀さん早紀さん早紀さん早紀さん早紀さん早紀さん早紀さん早紀さん早紀さん
早紀さん早紀さん早紀さん早紀さん早紀さん早紀さん早紀さん早紀さん早紀さん早紀さん早紀さん早紀さん早紀さん早紀さん
早紀さん早紀さん早紀さん早紀さん早紀さん早紀さん早紀さん早紀さん早紀さん早紀さん早紀さん早紀さん早紀さん早紀さん
ドアを、開けろ。開いた。早紀さん!居た。早紀さんが。
目の前に。
黙って。
宙に浮いて。
天井から。
ぶら下がって。
縄で。
首から。
目を閉じて。
だらんと。
浮いたまま。
動かず。
床に椅子が。
転がってて。
静かで。
早紀さん。

返事ナシ

渡部さんが何か叫びながら早紀さんを下ろした。僕も手伝った。
早紀さんは冷たかった。渡部さんは泣いてた。僕は泣かなかった。こんな時は落ち着くべきなんだ。
僕は保健体育で習った事を思い出した。そうそう、こんな時はああすればいいんだった。
うろたえるだけの渡部さん。ダメだよ。こんな時こそきちんとしなきゃ。
僕はうろたえないできちんとやるべき事をする。
心臓マッサージと、人工呼吸。マジメに授業受けといて良かった。これで早紀さんも大丈夫だから。
早紀さんを横たえて、と。ええとまずは確か・・・・気道確保。顎を上に上げるんだったな。
オッケー。次は人工呼吸だ。鼻を指で押さえて、鼻が冷たいなぁ。口を覆うようにして息吹き込む。
ふー。唇も冷たいぞ。仕方ないか。今日は寒いから。ふー。胸がふくらむ。うまいぞ僕。
よし、心臓マッサージだ。早紀さんの胸に手を当てる。いい感触。違う。肋骨の下あたりに両手を重ねて。
1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15。
確か15回押すんだったな。で、その後に人工呼吸2回。ふー。ふー。
いいぞ。あとはこの繰り返しだ。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。

渡部さんが後ろで何か言ってる。「無理よ」

心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。

渡部さんが後ろで何か言ってる。「死んでる」

心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。

渡部さんが後ろで何か言ってる。「この娘はね」

心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。

「虫の記憶と早紀ちゃんの記憶。両方持ってたのよ」

心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。

「耐えきれるわけなかったのよ・・・・・」

心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。

「ねぇもうやめて」

心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。

「お願いだから」

心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。

「ねぇ・・・」

心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ15回。人工呼吸2回。
心臓マッサージ4回

僕は突き飛ばされた。
顔を上げると、渡部さんじゃなかった。おばさんだった。この人が「渚」さんなんだな、と思った。
渚さんは大声を張り上げた。「私の早紀ちゃんに触らないで!」
僕はまた突き飛ばされた。渚さんが早紀さんを抱え込んだ。これ以上ないくらい泣いてた。
誰かに手を引かれた。渡部さんだった。涙目になりながら言った。「行きましょう。」
僕たちは岩本家を出た。外は真っ暗になってた。
僕は何か叫んだ。

何て叫んだのかは覚えてない。

いとしき


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