君と季節を超えていく

虚妄
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更新: 2022/10/16 8:42:17

優しさは時に傷つけるんだよ______


昔から端正な顔立ちをしていたから、いつだって隣にいるのは恥だと思ってた。
“ただの幼馴染です”と何回言っただろう。
隣の家のたまたま住んでて、幼稚園のバスが一緒で、親同士が仲良かったってだけの関係。


クラスの女子の目の敵になる事もずっとだったから、慣れて来ていた。
いつも決まって女子トイレで言われた。


「あなたはあの人の何なの」

如何にも『前髪が命です』といったふうに胸ポケットには櫛が幾つも刺さってたし、彼の為に頑張ってるのか校則違反の化粧もしているクラスの女子に何度も耳元でどす黒い声で囁かれたし、目の前で泣かれた時もあった。

けど、いじめられることは無かった。
いつだって彼は隣に立ってくれてたし、いじめられる筈がなかった。ただの幼馴染、されど幼馴染だったから。

出席番号は決まって前後だったし、神様は意地悪なのかはたまた優しいのか学生時代はずっと同じクラスだったし、何故か彼はずっと隣にいて離れなかった。トイレ以外は。


周りから「付き合ってる」って噂が立っても何とも言わずに彼は手を握ってくれていた。幼馴染だったから、いつもの癖なのだろう。だから手を引っ張ってはくれなかった。


高校生の夏の夜だった。彼にいきなり告白をされた。私は断った。
肩幅も広くなって、声も低くなって、手を握る力も強くなった。他にも男らしくなってたけど昔からの端正な顔だけは変わっていなかった。
それでも私は断った。
「友達としてしか見えない」とかそんなありがちな理由じゃなかった。
彼の優しさは時に暴力にもなる。その優しさに甘えている訳にはいかないことぐらいずっと前に分かってたけど、哀しそうな顔をする彼を見たくなかったから、ずっと言えなかった。
「優しさは時に人を傷つけるんだよ」
それだけ言って逃げるようにして帰ってきた。


どんだけ逃げても家は隣。どんなに嫌でも家は隣。顔を合わせる気が無くてもあってしまうのがお隣さんである。
私達は、その時から疎遠になっていた。
1人で行動する時間が沢山になった。
それに比例して女子トイレに呼び出されることも、無くなった。


それぞれの大学に入って、就職をした。
時々喧嘩する声が隣から聞こえる。「高校生の途中まで優しい子だったのに」彼の母がそう切なくつぶやいたのが玄関から聞こえたけど、聞こえないふりをした。


事件が起きたのは20歳を少し超えた頃。
“会社の付き合い”とかいう社会人らしい言葉も使えるようになった頃で、夜は頻繁に居酒屋に入り浸らなければならなかった。
正直そんなんだから体調もどんどん悪くなっていったけど、それでも居酒屋には行かなければならなかった。

「い...!...か?だ...じょ.....か⁈」叫んでる人の声で目が覚めた、倒れてしまっていたのだ。
「あ、、すいませ、、だいじょ、!?」私の「大丈夫です」という言葉を遮って、その人は抱きしめてきた。懐かしいような優しい匂いがした。

「車、乗ってって下さい、送るので」顔と反対側の上の方で聞こえてきた声に素直に従うしかなかった。

体調は最悪だった。高熱に加えて、貧血、さらには月一のアレも重なってしまっていた。それに気づかないぐらいだから、きっと相当無理してたのだろう。そして私の寝ている場所にはバスタオルとペットシートが敷かれていた。
「あ、起きた。大丈夫ですか、大丈夫じゃないですよね」部屋をノックして入ってきた彼。
「ありがとうございます、帰りますから。」そう言えれば良かったけど、体調不良の身であるのと、相手が悪すぎた。昨日は気付かなかったが、知らぬうちに避けていた優しさに触れてしまった。


「ごめんなさい、全部」彼が言い始めた。
「その…血も、熱も、それ以前のことも」涙を溜めてつぶやいた。
「ねぇ、タメでいいよ…?」多分私の本心だったんだと思う。脳で考えるより先に言葉が出てしまった。

「なかなおり」ひらがなに聞こえた言葉。病人の私よりか弱い言葉。そして震えてた手。
「ん、なかなおり。ありがとう。」それしか言わなかった。他に言ったら泣きそうになってしまう。それぐらい彼の事が好きだった。

「ひとりぐらし?」そう聞くと、「そう、喧嘩して出てきちゃって」と返ってきた。知ってるよ、と言いかけたところで愛おしそうに見つめてくる彼の目を見てしまった。

「ごめん、本当に。こんな時に言うべきじゃないけど」そう言ってから「もう一度チャンスを下さい」「君を守りたい」と言われた。
私も彼のことが忘れられなかった。ずっと彼のことがすごく好きだった。そう気付いたのはその時だった。

熱が下がった次の夜、あの日とは違う夏終わりの風が部屋を吹き抜けた。
あの日より少しだけ時間が経ったみたいだった。

遠い国の君。


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