【Snowちゃんリク小説】鎖
嵐 あろえ 小説最高ランク : 28 , 更新:
※この物語は嵐さんの二次創作となっております。
苦手な方はバックしてください。
多分俺等は、"嵐"って名前の鍵のない鎖で繋がれてんだと思う。
簡単に破壊できなくて、だからといって破壊できない訳ではなくて、
そして一度破壊したらもう、この繋がりは終わり。
それでもう、サヨナラ。
誰も壊さない鎖。
壊せない鎖。
それぞれが自己満足の偽善のためであり、保身のためであり、
そして破壊してしまうことに怯えていた。
破壊する理由も、俺には持ち合わせていない。
テレビ局下、駐車場。
次の仕事のためマネージャーが車を出しに行くのを、入口で待っていた。
ぴろりん、なんて軽やかな機械音が手元の携帯ゲーム機から鳴る。
画面の中の小さな赤いオーバーオールのおじさんは、
頭部でやすやすとブロックを破壊しキノコ型のアイテムを取り出した。
それに触れると、少し彼の身体が大きくなる。
もしこの鎖を破壊して、何か利益があるのなら。
もしその利益が、自分の地位や実力を大きくさせる物だとしたら。
俺は、破壊するだろうか?
「ニノー!」
「んー?」
不意に自分を呼ぶ声がして振り向けば、この強い鎖になる前から綱引きの綱みたいな繋がりを持ってる相葉さんが息せき切って走ってくる。
俺の目の前で一気に減速し、
少しふらつくのを馬鹿だなぁとボヤきながら支えると、
彼はしょうがないじゃーん、と少し口を尖らせた。
「どしたの?相葉さんも次ロケだっけ?」
そう問うと肩で息をする彼は、
そうだけどっそれよりも!と右手を俺に向かって突き出した。
ふと、彼の手にA4サイズの紙が握られているのに気付く。
「……何それ?」
「車の中で言われると思うけど…はい」
その紙を俺に差し出すと一瞬で相葉さんは、真剣な表情へ変わった。
――――「場合によっては、嵐が無くなるかもしれない案件かもね」
「……っはは、何だよ……それ?」
あまりにも突飛すぎる発言に、そう無理やり笑って頭を掻いた。
このままだと普通に理解不能なので、その紙を貰う。
それは、どうやら俺の作った曲がアメリカのお偉いさんの目に止まったようで、
それが好評だったのでこれから売り出すアーティストの専属作詞・作曲家になって欲しい、なんて内容だった。
有り得ない。
けど、この手の中の紙と片隅の署名がそれが事実という事を示している。
「……引き抜き?的な?……いや、だって俺、この仕事してるし……ねえ?」
わざとらしい苦笑と共に、自分にそんなことを言い聞かせてみる。
まだ、俺にはこの事実が信じられなくて。
戸惑いよりも、ドッキリなのではないかという疑惑が先行する。
でもその名前は、いつか画面越しのゴシップニュースで見たお偉いさんで。
「……マジかよ……」
今の仕事より、お金が入るかもしれない。
今の仕事より、楽しいかもしれない。
今は――――今の、仕事は。
「……もし俺がこの仕事受けて嵐辞めたら……相葉さんは、どう思います?」
言う時はちゃんとしっかり言う、隠れたしっかり者の相葉さんだから、きっと。
こういう時、俺に正確な選択肢を導き出してくれる。
彼は俺の手元の紙の一点を透視でもするかのようにじっと見つめ、
ふっと顔を上げた。
「……んー……別にいいんじゃない?ニノがやりたければ、それはそれで」
少し彼の顔が優しげに綻ぶ。
俺が居なくても大丈夫。成り立たなくはない、なんて、そんな意味合いの表情。
一つ瞬きして、また問う。
「……もしそれで、嵐が解散したらどうします?」
深く思案しているような顔になり、記憶の中を探るように視線が右往左往する。
瞬きでそれを止めた。
「えー……でも解散するってことはニノがいない、4人の嵐は嵐じゃないって皆思ってるからこその判断でしょ?それならそれはそれで……いいんじゃないかな?」
相変わらず、人に気を遣ってる。
だけど、これは彼の本音だろう。
「多分リーダーも翔ちゃんも松潤も、そう言うと思うよ?子供じゃないんだから、何事も受け入れないと!」
んね、と彼が笑うと、遠くから静かにグレーのワゴン車が現れる。
サーチライトが2人を眩しく照らして目を逸らすと、
運転席右の窓が下がりどうぞーと言うマネージャーの顔が覗く。
最近ハイブリッドに買い換えたと言っていたのを不意に思い出しながら、
相葉さんと一緒にマネージャーの車に乗った。
2日後、別の5人の冠の収録で。
「はよざいまーす」
適当な挨拶で、楽屋の扉を開ける。
俺が入ったタイミングで一瞬、
ほんの少しだけ微妙な空気になったのを感じ取ったものの、
今は敢えてそこは触れない。
「おはよぉー」
「ん、おはよ」
「おはよーう」
「……はよー」
大野さんの少し眠たげな挨拶――一昨日17時間釣りに行くと言っていた気がする――と、様々な新聞を並べた翔さん――そういえば明日はZEROだったっけか――のしっかりした挨拶に、相葉さんのはつらつそうな挨拶、朝が弱く機嫌が少し悪めなJの挨拶が順々に連なる。
よっと、と呟いてぼすんといつもの場所のプラスチック製の椅子に座って、唾を飲み込んだ。
「……ねえ、皆さん」
今から、少しだけ。
俺のために、時間を割いてください。
俺の決断を、聞いてください。
少しだけで、いいんです。
「……あの、一昨日聞いたと思うけど……あの、オファー?のやつ」
この仕事は流石にこれからに関わってくるので、
何故か俺の歯医者の予定まで把握してる翔さん以外の他4人も把握していた。
だからこそ、こんな曖昧な説明でも通じる――――からこそ、
結果をちゃんと報告しなきゃなんだけど。
それぞれが緊張の面持ちで息を呑むのが見える。
「……うん、やっぱり、断る事にしました」
へへ、と笑い、頬を掻く。
多分皆分かってたろうななんて思いながら4人の顔を眺めれば、
やっぱり少しほっとしたようだけれど、
少し奥に余裕が見え隠れする表情をしていて。
「なんか見た感じほんとに、今の仕事よりこれ高い計算なんですよね、でも」
手の甲を下にして親指と人差し指を輪のようにし、他の指を伸ばす。
金、moneyを示す手である。
「えっ、なのに受けなかったの?」
「金だけで動く人間だと思われてんかよ俺!?」
翔さんが冗談半分な声色でビックリしたように笑うのに、
楽しげに、少し驚いた声色を作って笑う。
少し控室の空気が和らいだ気がした。
「……でもなんか、なんというか……落ち着くんですよね、此処?」
口元を緩め、4人の顔を眺め回す。
ふふ、と笑みを零して、再び口を開いた。
「ほんとあれよ、アメリカさん怖いし」
「うん、確かに俺等は怖くねーわ」
Jが苦笑しながら頷く。
この人だって、顔は濃いけど怖さは0だ。
暖かい。
穏やかで、やる時は引き締まって、それでも優しくて。
そんな中に入る事ができたことだけで、とても幸せなのかもしれない。
こう仕事が選別できるのも、やりたい事やれるのも、
皆に愛される存在を目指せるのも、恵まれてると思う。
「まあ仕事やってくれればそれでいいよ、俺だって好き勝手やってるんだし?」
毎年毎年真っ黒になって怒られる、なんて笑う大野さんに、
好き勝手は駄目でしょなんて言って呆れたように微笑む。
椅子に座り直し、笑顔で顔を上げた。
「ってことで、これからよろしくお願いしまーす」
「「よろしくお願いします」」
深々と座礼。
それに見習ったかのように4人が机に頭が付きそうになるまで礼をする。
うち1人――相葉はぶつけかけていたのは置いておく。
柔らかに笑えば、柔らかな笑顔を返してくれる。
そんな暖かい鎖を、壊す理由なんてなかった。
―鎖― fin
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