文アル小説。回転木馬の追憶第二。

文アル 小説 乱歩さんいらっしゃい
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更新: 2018/03/05 8:05:28

「乱歩さん?」
「はい、乱歩さんです。一体如何しました、最近出た怪奇小説についての議論をしようと床で渋るワタクシを無理矢理外に連れ出したのは貴方でショウ。張本人が迷子になって如何します。探しましたよ、朔太郎サン」

差し出される手を取るとまるで生きていた頃と同じように温かく指指は脈を打ち乱歩さんの血液が僕の中に流れるような錯覚をした。錯角が錯角だと分かったのは僕の手を力強く握り締め楽しそうに回転木馬に向かって駆ける衝撃が繋いだ手から心臓に渡ります鼓動が早く波打った時だ。
靡く髪も忙しなく動く瞳もあの頃と全く寸分の狂いもなく同じで薄暗い曇り空の中唯一輪郭が見えるのが何故だか酷く奇妙な感じがした。頬が上気し胸から込み上げてくる橙色の波が心臓を締め上げ自然と口許が緩む。生きているんだ。

「朔太郎さん、見てください。運よく誰も並んでいませんし乗っていません。これもワタクシの日頃の行いが良いお陰ですかねェ」

自信気に頷く乱歩さんを見て自然と笑みが溢れる。全く、この人は僕を笑わせる天才だ。

「悪霊を途中で終わらせた人が何を言いますか。坂口安吾という人にはちゃめちゃに叩かれたとお聞きしましたよ」
「ンン……。それは言わない約束でしょう朔太郎サン」
「すみません」
「声が弾んでいますよ、朔太郎サン」
「すみません」

また弾んでいる。そう言って乱歩さんは耳で赤く染め目を泳がしながら口許を被っていたシルクハットで隠した。よく見ると服装が生前とは違う。白を貴重とした上等そうなスーツに裏地が深い青で染められ三つに切られたマント、同じく白いシルクハットにモノクルをかけ乱歩さんらしいと言ってしまえばそれまでな、お洒落な格好をしている。僕は気になってその服装は何をイメージしているのかと聞いたところ、乱歩さんは嬉しそうに笑って怪盗ですと答えた。てっきり僕はマジシャンだと思っていたものだからついマジシャンではないのかと訊いた。

「マジシャンではなくこれは歴とした怪盗です。怪盗は泥棒と違いいつでも紳士的で品の良い格好をしなくてはなりません。だから白と青なのです。それに、暗闇の中から瞬きをする間に白が現れると人々は驚き歓声を漏らすでしょう、有り得ないと」

そう聞いて確かに最もだと首を縦に振った。流石は乱歩さんだと思ったし乱歩さん曰く口に出ていたそうだ。

「まぁ、人によりけりですネ。さ、乗りましょうか」

気づけば目の前には色とりどりの眩しい光を放ちながら絶えず回る白馬の姿があった。軽快な音楽と共にゆっくり上下に回る。乱歩さんは慣れた手付きで二人分のお金を払い青い鞍の馬に股がった。僕もその隣の赤い鞍の子馬に乗る。元から開いていた背丈が乱歩さんより小さい子馬に乗ったがために尚更開き見上げるほどになった。乱歩さんも僕を見下ろしうしろの馬に乗るよう提案をしてくれたが僕がここが言いと答えると別の、僕のうしろに居る子馬に股がった。満足そうに笑う。僕は次は乱歩さんの股がった隣の馬に股がり乱歩さんを見下ろした。するとまた乱歩さんが今度は首が疲れるからと僕の前にある最初に乱歩さんが乗った馬に乗ったと同時にまた僕は乱歩さんの隣の最初に僕が乗っていた馬に股がった。怪訝そうな目で見下ろされるが僕は乱歩さんの隣が良かったので何と言われても乱歩さんの隣に股がった。
次第に乱歩さんも僕の意思に気づいたのか子を見る母のようにやさしく笑い、貴方がそれでいいならと青い鞍の馬と赤い鞍の馬に乗ったまま発車のブザーが鳴るのを待った。
暫くして地震のような衝撃と共に軽快な音楽がなり馬が上下に動き出す。ゆっくりと回っていたのが次第に早くなり重力に抗って走る感覚が浮遊しているような心許ない不安に駆られると同時に普段じゃ味わえないその感覚が楽しく時間も忘れて二人で何回も乗った。

雲の間から差し込む光が丁度乱歩さんの隣に置かれた鏡に反射し木馬に付けられた華やかな装飾が眩しく目に映る。日本に居る気がしない。それは乱歩さんも同じなのか装飾が光る度にあそこが光った、あの光はご先祖の光だ、あれはあやかし、あれはこの世に怨念を残して消えた男のものだとか一つ一つ指差して弾む声で説明する。
ふとこのままずっとここに居座ることも可能なのではないかと思った。遣ったことはないがもしかしたら可能かもしれない、誰も遣ったことがないのだ可能性はゼロではない。

「乱歩さん」
「はい?」

もう思い残すことはないと言ったように僕を振り返るその顔は幼い何も知らない純粋な少年そのもので僕のこの卑しい感慨がその青色の瞳に映し出されてしまうのではないかと不安になると共に意味もない罪悪感が芽生えた。相変わらず空は薄暗い曇り空のままだが今の僕よりはずっと清みきった一つの邪点もないだろう。

「帰りましょう」

唇は震え飲み込む唾は喉の奥深くに引っ掛かり飲み込むという行為さえ躊躇われるほどの静寂が僕らを包み込んだ。遠くで聞こえていた回転木馬の音楽も道行く人々の声も何もかもが僕のその一言で粉々に打ち砕かれる。

「家に、ですか? それにはまだ日がありますが」
「いえ、皆の元へ帰りましょう。皆の元へ」

そっと壊れ物を扱うように乱歩さんの頬に手を当てる。頬と耳の付け根当たりを優しく爪で筋を入れ出来るだけ痛みが伝わらぬよう滑らかな動作で指をその筋の間から滑り込ませ仮面を取るように顔を取った。中から粘着質な墨が溢れ落ちコンクリートの上に斑点模様を描く。

「何を」

乱歩さんが言い終わるか終わらないかのうちに仮面を持っていた銃で撃ち抜く。青い瞳は灰色に変わり白い頬には無数の亀裂が走る。

「さようなら、そして、お帰りなさい」

司書君から預かった墨の中に灰と化した乱歩さんだったものを掬って入れる。懐かしいあの頃はいつしか何もない真っ暗な空間に変わり僕の手には墨が粘り付いていた。








文豪を転生させる為には文豪の思い出を墨に混ぜなくてはいけないみたいなのだったらいいなって。その思い出も転生させられる文豪さんを壊して得られるものだから仲が良かった人だと一寸躊躇われるなって。そんなお話。
因みに私の推しである乱歩さんと白秋さんは効率厨なので出会って即壊します。
そんなイメージ。

一介の宇宙人


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中原中也生誕祭ss
2018/04/29 9:22:37 一介の宇宙人 3

Twitter、pixivの方にも上げた中原中也生誕祭ssです。何とか間に合いました、皆様...





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