失語恐怖症【短編小説】

小説 創作 短編
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云いたいことが云えなかった。

例えば、「これについてどう思う?」と聞かれたとして。「え、あ、あの」と情けない声は出すものの、その先が云えなかった。

これ、とはつまり、あのことか。あのことだったら、こう思う。けど、間違っていたら嫌だ。でも多分合ってると思う。あぁ、だけど反論されたら返せないし……そもそも、この人は「これ」についてどう思っているのだろう?もしもこの人が僕に同意を求めていた場合、反対の意見を云ってしまったらこの人に失礼だ。どうしようか。変なことを口に出して、なんだこいつと思われるのも嫌だし……

以下、省略。

頭の中では、狂ったパーティーのようにざわざわといろいろな考えが動き回っているのに。どうしてか、僕はそれを口には出さなかった。出せなかった。

怖かったのだ。自分の言葉で人を傷付けてしまうのが。時に言葉は、ナイフとなる。軽い気持ちで発したその声が、いつか相手を苦しめてしまうこともあるのだろう。だから、怖かった。

今日の話題は犬派か猫派か。僕はどちらかというと猫派なのだが、例によって会話が始まってから閉口したままだ。葉山さんは猫派、田辺くんは犬派。馬場くんは猫派。夏木さんは猫アレルギー。

傍観者、という立場がある。僕はそれを大いに利用した。一応、グループの中には入っているが、会話の輪には入っていない。どうせ入ったところで何も話せないからだ。

馬場くんが云うには、昔犬に吠えられてびっくりして転んだことがあるらしく、猫派なのだそうだ。夏木さんの猫アレルギーが発覚したのは5歳のとき。親戚が猫を連れてきたのだ。葉山さんは猫を飼っているらしい。田辺くんはどちらかといえば犬派、という感じだった。

僕は目を閉じて、鼻から息を吸った。鼻の中が一瞬涼しくなり、また元に戻る。目を開けて見えたのは、夏木さんの笑った顔。

しばらくは、葉山さんが会話の中心のようだ。太った猫の話をしている。犬派の田辺くんをどうにか猫派にしたいらしい。葉山さんは、よく喋る。話すときの身ぶり手振りが大きくて、高い位置で結んだ髪がふわふわ揺れる。

僕は、葉山さんの話を右耳に軽く入れておきながら、窓の外を見る。雲一つない秋の空が、僕には眩しかった。

「ね、上谷くんは?」

上谷。僕の名前だった。正確に云えば、上谷真樹。かみやまき、なんて一瞬女の子にも見えるような名前。

驚いて目線を動かす。僕の目線は発せられた声の主を探していた。視線の先は夏木さん。胸まで伸ばした黒髪が、傾げた首に合わせてさらっと揺れた。

上谷くんは?ということは、僕が猫派か犬派かを聞いているのだろう、おそらく。
でも違ったら?
葉山さんの猫の話だったらどうする?そこで猫派です、なんて答えても「は?」と云われざるを得ない。

仮に、聞いていることが合っていたとしても、だ。聞いている本人ーー夏木さんーーは猫アレルギー。猫派と答えてしまってよいのだろうか?
しかし犬派だと答えたとして、犬について熱く語れる気がしない。僕は犬の種類をチワワと柴しか知らないような男だ。

「あ、えと、僕は」

駄目だ、声を出してしまった。もう後には戻れない。声を出してしまったのなら、もうあとは答えるしか選択肢は残されていない。

葉山有紗。
馬場寿一。
田辺優斗。
夏木愛美。

四人の目線が、僕を捉えた。

僕は声が出なくなった。

***
二回目の投稿すみません。
寝るって云ったのに寝れなかった(笑)

失語恐怖症は本当にあるんです。仲良くない人と話すときの私があんな感じ。

ちなみに登場人物の名前は下の通り。

上谷真樹(かみや まき)
葉山有紗(はやま ありさ)
馬場寿一(ばば としかず)
田辺優斗(たなべ ゆうと)
夏木愛美(なつき まなみ)

追記。
続編➡http://ulog.u.nosv.org/item/yuzuhamburg231/1504939856

妃有栖


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ありがとー!
シリーズはね、これに出てきた上谷くん以外の人が主人公になる予定。
頑張るね~!

星野博美さんは載ってなかった(/_;)/~~
代わりに?茨木のり子さんが載ってた
( ゚д゚)ハッ!もしかして走れメロス全部の教科書に載ってる??
やったね、太宰さん超有名だよ!((


妃有栖
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