骨董品【短編小説】

小説 短編 創作
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最高ランク : 9 , 更新: 2017/10/22 10:54:17


※ほぼ即興

ハテ、何故に此処に入ってしまったのだろう。私は思案せずにはいられないのであった。引き寄せられた、とでも云っておけばいいだろうか、扉の取っ手に触れた瞬間、私はその店の中に入ってしまっていたようだ。タダ、扉を開けた感覚がなかっただけかもしれないが。

店内は薄暗く、窓も小さなものが一つあるのみ。外はよく晴れた昼間だったはずだが、まるで「夜」という一部を切り取って貼ったように、暗い空間が広がっていた。建物の位置、向きのせいか、光が入って来ないのだろう。

木製の木のテェブルに、ひとり用のモノと二人用のモノが一つずつあるソファ。雑貨屋のようにも、喫茶店のようにも見える。奥には時計やらランプやら、古くなった背表紙の本やら、アンティークな雑貨が並んでいる。棚に一列に並べられた仏蘭西人形の顔が、白熱電球のランプでボワァッと浮き上がって見えた。

兎に角狭い店だ。一体何畳くらいあるのだろうか。だからこそ、所狭しとギュウギュウに陳列された雑貨たちがよく見えるようだった。折角だからナニか買って帰ろうか。私は店内を見回す。

大事に保管された、とはとても云い難い、古い懐中時計が私の目に止まる。コレぞアンティーク、と云わんばかりの懐中時計だ。懐中時計、と云うと私は「不思議の国のアリス」の白兎を思い出す。いや、正しくはソレ以外に懐中時計を持つ人物を知らないだけだ。

無造作に置かれたその懐中時計をゆっくり手に取る。左手の腕時計と比べると、時間はドウヤラ間違ってはいないらしい。数字はローマ数字で、文字盤の中心は中の歯車が見える、所謂スケルトンというデザインになっていた。鎖の部分には、トランプを模したパーツが付いていることから、やはり不思議の国のアリスを意識したモノだと思われる。ナカナカ凝ったデザインだ。

「オヤ、ソノ懐中時計が気になりますか」

後ろから声を掛けられた。吃驚して振り向くと、白いシルクハットを被った男がニコニコと笑いながら立っていた。黒いマントを羽織り、左目には方眼鏡を着けている。此処の店主だろうか。私は勝手に此処の店主は気難しい老人か、大人しい女性かと思っていたが⋯⋯。まさかこれ程に若い男性だとは。

「アァ、ハイ、そうです」

曖昧な答えを返すと、男は左手で口元を隠し、くつくつと笑った。女性のような仕草だ。笑った男の顔は美しく、コレが人間のモノだとは私はドウニモ思えなかったのである。つまりは、作り物染みている、というコトだ。

「そうですか、ならば持って行ってください。ドウセ売れませんしね」

「イエイエ、お金は払いますよ、キッチリとね」

実を云えば、私はお金に対して少し神経質になってしまうのだ。此処で払わないでおいて、イツカ「お金を返せ」と云われたら困る。マァ、この紳士に限ってそんなコトは無いとは思うが、念のためだ。だが、紳士は首を横に振って云った。

「ワタクシはお金など要らないのです。アナタ様がコノ店のモノを気に入って、持っていてくれるならばソレでいいのですよ。大丈夫、時間が過ぎて忘れた頃に『金を返せ』などとは云いませんからね」

微笑を浮かべる紳士。私はと云うと、心の中を見透かされたような気がして、変な気分だった。紳士は何者なのか、やはり気になるが、ソレ以上踏み込んではいけないように思い、私は懐中時計を手にコノ店を後にするコトにした。

だが、そのママ帰るのは紳士に悪い。ナニかお礼が出来ればいいのだが、生憎今、紳士に渡せるようなモノはない。

そうだ、時計だ。懐中時計を買ってしまえば今私の左手にある腕時計は用済みになる。私には、コノ腕時計を譲り渡せるホド親密な仲の者はいない。腕時計を外し、紳士に渡そうと近付く。

「オット、お礼など要りませんよ。ソレよりも、ワタクシにコレ以上近付かない方がいい。時計と同じように、ワタクシも壊れやすいモノでしてね⋯⋯オヤ」

そう云った紳士の右手は床に落ちていた。

妃有栖


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舞桜⇒ちょっと意識したよwバレた?(笑)
不思議な話は書くのも読むのも好き♡
ある意味得意分野かな(笑)
うん、即興っていうか
オチしか決めてなかった(笑)


妃有栖
2017/10/23 4:27:37 違反報告 リンク