及川さんが泣くとき。【ただの思いつき短編】

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例えば、つい最近まで手を繋いでいたところで、ただ笑っているだけたたり。
例えば、つい最近まで合わせていた歩幅が、君と合わなくなっていたり。
例えば、つい最近までもう少しだけ跳ねていた声音が、ちょっと落ち着いてきたり。

日常の中で蓄積していった違和感を、見て見ぬ振りをして、丁度一ヶ月経ったある日。

「…話、良いかな？」

彼氏と彼女って肩書きの俺たちなら、きっと休み時間に呼び出されるなんて普通のことなんだろうけど、そのとき俺は妙な違和感を抱いた。
何か良からぬことが起きそうだな、って、皮肉にも、それが本当であるかのように、彼女の表情は少し歪んでいた。

セッターであるからか、人間を見るのは得意で、思っていることを予想するのも、結構簡単にこなせる。
それが、今は邪魔で邪魔で仕方がなかった。

人気が少ない廊下に連れてこられて、「何？話って」と、いつものように話しかける。
つい最近までは、「いっしょにいたかったから」
とか、可愛らしい返事をしてくれていたのに、今日はそれがない。

「あのさ、徹…別れよう？」

だから、そう言われた時に、「ああ、ついにきてしまった」なんて思ってしまったのだった。
ごめんね、と言いながら、彼女は岩ちゃんのことが好きになったと述べた。
腕を掴んで、引き寄せて、抱き締めて、「嫌だ」
って、子供みたいに縋っても良かったのかもしれない。人に何か強く要求されると断れない彼女の性格ならば、無理矢理にでも自身の気持ちを俺に向かわせようと努力するだろう。

でも、それじゃ駄目なんだ。

「…うん、良いよ」

何も悟られないように、俯きながら。

「絶対に幸せになってね！」

できるだけ、明るい口調で。

彼女は、ありがとうとだけ言って、廊下を歩いていった。

俺が顔を上げたとには、もう背中は随分と遠くに見えて、
今なら大丈夫だろうって、安心した。
みんなの及川さんが、かっこ悪く笑って、かっこ悪く泣いて、そう考えると、止まれ、止まれって思ってしまう。

それでも、無理だったんだ。
止めることなんてできなかった。

もう"彼氏彼女"なんかじゃない。
俺に"好き"と笑って言ってくれる彼女はいない。

「大好きだったよ」

《それは、愛しい人を失ったとき》

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文章力向上に向けて短編をいっぱい投稿します（＾ω＾）
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