供養します【閲覧注意】
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ワンクッション(´・ω・`)(´・ω・`)
満月が薄雲を纏う。朧気な月光は、庭園のバラを見るのにはあまり良い環境ではなかった。
しかし、これ以上あの重苦しい屋敷に居たら、私自身の精神の負担過多により気が狂ってしまう。
そういう理由で、私はこうして定期的にバラの香りや美しさを堪能しに庭園へ赴く。
お気に入りの青いバラの花園につけば、そこには先客が1人。長身痩躯な身体付きに、流れる黒紫の髪はこの家ではあの男しかいない。
彼は花を一輪採ると、ゆっくりとそれを鑑賞した。くるくると茎を回し、隅から隅までじっくりと。
しかしその手は急に止まる。
「そこで何をしているのですか」
低音ながらも、少し柔らかな声で呼ばれる。
先客の正体はさんだった。私をいつも薬の実験台にする、酷い人物だ。
そんな兄のこのような意外な一面を見て、私は何を言われるのだろうか。小言なら、もう言われなれている。
「……」
「無視、とは質が悪いですね。そんなに拷問部屋に行きたいのですか?」
貴方は所詮新薬の実験台としての価値しかないんですよ。
付け足すように兄は言う。私を玩弄せんばかりの視線を送る彼は、喜色満面の笑みを浮かべている。何がそんなに愉快なのだろうか。
青いバラの芳醇な匂いが漂う中、兄はゆっくりと私に近づいてきた。一歩一歩、確実に。
その表情は、先程の笑みを忘れさせる位の冷酷な真顔だった。
気迫に後ずさるも、背も足も長い彼の歩幅によって追いつかれる。腕を強く掴まれて、私は痛みに顔を顰めた。
「不愉快なんですよ、その被害者面。
誰からも愛されて、全て持っているくせに」
力は更に込められた。骨と皮のみの僕の腕は、限界を迎えて悲鳴を上げようとしている。
離せ、と言う。
は力を緩めない。
「今夜は満月で、少し喉が渇いているんですよ」
抱き寄せられて、目の前にの顔が迫る。
瞳はよく磨かれたルベライトのように瑞々しく、夜空を零したような青黒い髪は実に艶やかに流れていた。
「っ、やめて! 離して!」
必死の抵抗の中、ふと昔、父が言っていた言葉が頭を過ぎる。
通常、純血種の血は汚泥の様で飲めたものではないが、奇形や異常な成長を遂げる純血種の血は非常に甘露だ、と。
しかし。
「同族間の吸血はタブーだったはずよ
!」
純血種同士の吸血は、された側もする側も下劣な快楽の波に沈み、最後は依存による禁断症状を起こし死ぬ。
その為、子孫繁栄を望む純血種はそれをタブーとした。
しかしは自身の渇きを潤す為に、僕と自分を犠牲にその禁断を侵そうとする。
その様子はまるでこの男がいつも罵る、貪欲な生者のようだ。
「少し、静かに出来ないものですかね。私たちはこれからその禁忌とされる快楽を享受できるのですから」
首筋に、鋭い感触。牙を立てられた。冷たく、微塵も優しさを感じられない。抵抗をしようとしても、この男にとっては可愛らしいものだろう。
羸痩したその体のどこに力を隠しているのか。
「さあ、受け入れなさい、私の牙を」
「っ……!」
目を見開く。この男、容赦なく噛み付いてきた。
体中の血液が吸われていく。力が入らない。
意識が混濁してきた。視界も曖昧になる。
「……はな、して……」
残りの気力を振り絞って出した言葉に対して、は返す。
「貴女は彼女も守れずに無様に蕩けた顔を私に見せているのが一番お似合いですよ……」
男女が二人、艶やかに咲く青い薔薇の花園で醜い慾望と快楽に溺れていく。
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