虫の日記 1月28日(日) 晴れ
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祖母の要望で、ヤツはちゃんとした葬儀で葬ることになった。
今更そんな事が可能かと思ったけど、祖父は大丈夫だと言った。
祖父は以前そんな時に必要ないわゆる「書類」とかを扱う仕事をしてたそうだ。
僕にはそんなオトナの事情など知ったことではない。
結果だけ分かればそれでいい。
母親の処遇をどうするか。
当然このまま家に居着くものだと思ってたが、どうもそうはならないらしい。
あんな状態だからどっかの施設にでもブチ込むのか。そう思ったけど、それも違った。
祖父達は何か当てがあるようだった。
やっぱりあそこに戻してやろうか。その方があっちも喜ぶし、こうなった以上仕方ない、と。
その時僕はヤツの言葉を思い出していた。
「ここに置いておこう」
僕は提案した。
祖父達は何やら言い返してきた。色々理由を述べていけど僕は何も聞いてなかった。
一通りの事を言い終わり、さらに何か語ろうとした矢先に、僕は言った。
「アレでも僕の母親だから。」
何も言い返して来なかった。
ヤツは同じ部屋に寝かされていた。
昨日までと違うのは、顔に白い布がかかってるくらい。
タオルや溲瓶やらはまだそのまま放置されている。
じっとその姿を見つめてると、後で祖母が嘆いた。
「人様を殺めたりするからだよ・・・」
それだけじゃない。
あの惨めな最期は、それだけのせいじゃないと思った。
平然と殺してたからだ。罪に対して何の反省意識も持っていなかった。
「狩り」から帰った時も、どんなヤツをどんな風に消した、と何てことない普通の会話として語ってた。
人の命をゴミのように扱い、本当にゴミのようにしか思ってなかった。
たぶんそのせいだと思う。
自分の部屋部屋に戻ると、突然口元が緩んだ。
自然と声が出てくる。ケケケ
可笑しくなった。僕の今日の発言、僕の考えたこと・・・思い出すだけで、可笑しい。
「アレでも僕の母親だから。」だって?
冗談じゃない。あんなのを母親と思われたらたまらない。
嘘ついた。ヤツの頼みを一応聞いてやろうと、嘘をついた。
「人の命をゴミのように扱い、本当にゴミのようにしか思ってなかった。」
だからあんな惨めな最期を、なんてのも滑稽極まりない。
僕もそう思ってる。僕も早紀を汚す輩の命など、ゴミにしか思ってない。
僕もまた、最期は惨めな事になるのだろうか。
ケケケ。嫌だね。
ヤツの死に関しては、義務を果たした今、もう何の感情も沸いてこない。
ただひたすらこう思うだけ。
あんな死に方だけはゴメンだ。ケケケケケ
どうもヤツの笑い方が移ったらしい。
自嘲気味に、苦笑いのようにして「ケケケ」と笑う。
これまで真似たことはあったけどけど、今は自然と出てくる。
何てことだ。ヤツが父親として、最期に遺していったのは、この変な笑い方だけなんて。
ご大層に継承してしまった。
ケケケ
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