【国見英】友達以上、恋人以上。【ハイキュー!!小説】
ハイキュー!! 小説 国見英最高ランク : 101 , 更新: 2015/08/08 8:18:05
*
2連続で国見君小説投下。
とある企画で書かせて頂いた小説です。
*
heroine's name:前野 雫 Shizuku Maeno
「えーちゃんっ!」
私がそう呼ぶと、えーちゃんは決まって少し眉を顰める。
それから、「アキラだよ」って言うの。
これが私達のお約束。
「う~ん……。だって、えーちゃんはえーちゃんじゃない」
えーちゃんの前の席に腰を下ろす。窓際の席だから、夕日がすぐそこ。
えーちゃんは塩キャラメルの銀紙を開けながら、「えーちゃんはえーちゃんじゃなくてアキラなんですよ」と返した。
私と話をする時、えーちゃんは私と目を合わせない。基本目線は下の方。
正直ちょっぴり切ないけれど、えーちゃんは照れ屋さんだから、ってポジティブにシンキングすれば大丈夫!
「ねぇ、えーちゃん?」
えーちゃんの机の上に乗ってるキャラメルの箱。そこから1つ、キャラメルを取る。
えーちゃんはチラッと私に視線を向けて、「勝手に取るなよ……」と呆れたように溜め息を吐いた。だけどキャラメルを取り返したりしない辺り、えーちゃんって優しい。
「良いじゃん1個くらい。……それより、えーちゃん覚えてる? 私がえーちゃんって呼び始めた日のこと」
「……急に何? 昔話?」
「もうっ、そういうのは良いから!」
キャラメルを口に放り込む。
口の中に、甘くて苦い――恋みたいな味が広がった。
*
えーちゃんと初めて言葉を交わしたのは、幼馴染みである飛雄ちゃんの応援に行った日だった。
(なかなかの善戦だなあ……)
IH予選3回戦。相手校は私の学校で。
正直なことを言うと、青城の圧勝だと思っていた。
飛雄ちゃんが強い選手だというのは知っていたけれど、烏野はほとんど無名の高校だ。それに対して、青城はそれなりに名の知れた強豪校。
バレーは6人でやるスポーツだ。1人だけ強くても勝てない。
――でも、そんな考えは簡単に破られたのである。
3セット目、試合はデュースに持ち込まれる。
「また13番……」
ここに来てよく動くようになった青城の13番。
私は多分、彼を知っている。
――国見君。同じクラスの男の子。……と言っても、話したことなんて全くないけれど。下の名前も憶えていない。
休み時間、たまに視線に入るくらい。そんな、浅い関係。ただ…………
彼のあんな笑顔は、見たことがない。
*
試合は青城の勝利。3セット目の得点は33対31。予想に反し、30点を超える接戦だった。私はバレーに特別詳しい訳じゃない。でも、あの試合のレベルが高いということだけは分かった。
その後の試合も難なく青城が勝利を収め、本日の試合は全て終了した。
(飛雄ちゃんには後で連絡しようかな)
席を立ち、体育館を出る。大会会場を出るまでの道のりで、前を歩く青城のメンバーを見付けた。
(やっぱり『強豪』って雰囲気あるな……)
集団の少し後ろを歩く。どこかから泣き声が聞こえてきて、「ああ、そっか。この会場で『負けてない』のは青城だけなんだ」と実感した。
――ポトリ。
ふと、視界に何かが入る。
「あ、タオル……」
落とし主は気付いていないのか。慌てて床に落ちたそれを拾い、「あの!」と持ち主であろう人に声を掛けた。
「これ、落とされましたよ」
比較的ゆっくりと振り返ったその人は……眠たそうな目と真ん中分けの髪。
国見君その人だった。
「あ、ども。……って、前野?」
私を見て、「なんでお前が」とでも言いたげに、少し首を傾げた国見君。自分以外のことには無関心なイメージがあったのだけど、どうやら私のことは憶えててくれたらしい。
国見君にタオルを渡す。そこで、端に小さく名前が書かれてあるのに気が付いた。
そういえば私も、他の人と混ざっても分かるようにって名前書いてたっけな、中学でバスケ部だった時。そんなことを考えながら、思い出せなかった下の名前を確認する。
『国見英』
「国見、エイ君?」
微かに彼の眉が顰められる。どうやら読み方を間違ったらしい。「ご、ごめん! 間違ってた?」と謝罪すると、「アキラだよ」と国見君が言った。
「国見ー!」
先を行く男の子――国見君とよく一緒にいる特徴的な髪型の男の子が、国見君の名前を呼ぶ。国見君はそれに軽く頷いた。
「ありがと」
端的に言って、タオルを受け取る国見君。それから少し皮肉っぽく、「クラスメイトの名前くらい憶えといた方が良いんじゃない? 前野雫さん」と言った。
(やっぱり、国見君といえばこういう笑い方の印象が強いなあ)
なんて見当違いなことを考えながら、「うん! ごめんね、えーちゃん」と笑う。
えーちゃんは心底嫌そうに声を低くした。
「アキラ」
「えーちゃん」
「アキラ」
「えーちゃん!」
「…………」
思えばあの日から、私は毎日のようにえーちゃんに絡んでいる気がする。
*
「IH予選の時じゃないの?」
「あれ? 憶えてるの?」
「憶えてるよ。凄い鬱陶しかったから」
相変わらず今日も遠慮のないえーちゃんの言葉。もう慣れっこになってて、全然心に刺さらない。これは良いことなのかそうでもないのか。良いことかな多分。
「ねぇねぇえーちゃん、1個訊いて良い?」
「駄目」
「なんで今日、部活ないのにこんな時間まで残ってるの?」
「駄目って言ったじゃん」
私と話をする時、えーちゃんは私と目を合わせない。基本目線は下の方。
でもね? 表情は見えなくても、えーちゃんの考えてることはなんとなく分かる。
今はきっと、ちょっぴり照れてる。
「えーちゃん、私のこと待ってた?」
「待ってない」
「じゃあ何してたの?」
「夕日見てた」
「絶対嘘だ!」
友達以上恋人未満。そんな言葉がある。
私達はきっと、友達以上で恋人以上だ。
「えーちゃん、帰ろっ?」
「アキラだよ」
「アキラ、帰ろ?」
「…………ッ」
よくよく考えると、タオルを渡しただけで話すようになって、こうして放課後を一緒に過ごしてたりして。
「やっぱり、心臓に悪いからその呼び方はやめて」
机の横に掛かっている鞄を取って、えーちゃんが立ち上がる。
「ほら、帰るよ」
「は~いっ!」
えーちゃんに続いて席を立つ。
えーちゃんの隣に並ぶと、えーちゃんはちょっとだけ私に視線を向けて、それをまた前に戻した。
――あのね、えーちゃん。心配しなくても、この呼び方を変えるつもりなんてないよ。
「えーちゃん」
「……何?」
「呼んだだけっ!」
だってね?
『えーちゃん』って、なんだか特別な気がするんだもん。
*
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