EP1-10 旅立ちと邂逅(第一幕 最終回)

創作 第一章 大魔女試練編
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最高ランク : 16 , 更新: 2023/08/10 3:30:16

✸前回までのあらすじ✸
魔法を操る「魔術師」、「魔女」らが存在する魔界。そんな世界で、魔女の憧れの存在、「大魔女」になることを、「月の魔女」ダイアナは親友で「魔の魔女」シャロと共に志していた。そして、二人は魔界に忍び寄る「異変」の存在に感づいてもいたのだった。
ある日、半年に一度行われる「大魔女試練」と呼ばれる大魔女になるための試験が実施され、二人は最終試験を受ける段階にまで進む。だが、そこにはなぜかシャロの姿が無かった。
最終試練の出題者、大魔女ライノーに引き続き大魔女ソリエルの試練に挑むことになったダイアナは、「人間界で、人間に魔術指導を二年間すること」というとんでもない試練内容に驚愕するも、大魔女になるためには、と心を決め、家族や仲間たちに二年間の別れを告げる。そして、ついに人間界へと向かおうとしていた。







会議が思いの外早めに終わってしまって、私は異界する前の最後の時間ということで、飛行魔術で魔界上空で停止し、魔界の観察をしながらぼうっと、一人で思いにふけっていた。
…ソリエル様。あの方は本当に、かなり私達に良くしてくれていたわね。
昔から鍛錬をする私にアドバイスをくれたし、まだ小さかったソルやロラ達のお守りもしてくれたし。
…どうして人間界にご友人がいるのかはわからないけれど。本当に謎が多い方ね。
と、少し昔のことを思い返している間に、ソリエル様は両手に荷物と書類を抱え込んで、私の元にいらっしゃった。地上に戻って、彼女を出迎える。

「ん?あれ、早いね?もしかして、私来る時間遅れちゃった?」

「いえいえ、会議が思いがけずすぐに終わってしまっただけですよ。」

「おお。流石娘たち!じゃあ時間ができてよかった。早速、ダイアナちゃんが異界する前に、渡したい物がいくつかあったんだ。」

「?何でしょうか?」

私が尋ねると、ソリエル様は持っていた荷物をドスン!と足元に。
…もしかして、この荷物はすべて私の物?これ以上荷物が増えて大丈夫かしら…

「あー、結構多そうだけど大丈夫。渡したいのは四つだけだよ。内二つは小さいし。で、はい!これが一つ目!」

「これは…」

一つ目の荷物は、確かに荷物と呼べる程大きなものではなかった。
ソリエル様の右手の中には、堕の地区の街灯の光を受けて青く輝く宝石が。

「これは魔石の一つ、アパタイトだよ。すっごく綺麗でしょ?これを、向こうに着いてから、教え子ちゃんのお母さんに見せてほしいんだ。」

「お母さん…あ、ソリエル様の親友という方に、ですか?」

「そう!実は、私がその子と別れる前に、最後に渡したプレゼントだった魔石と同じ種類のものなんだ。これを見せれば、ダイアナちゃんが私の知り合いだって分かるはず。そこまで魔力がこもった物じゃないから…まぁ、ダイアナちゃんが私の知り合いだっていう、ただの証拠品みたいな感じ?」

「なるほど、了解です。ええと、それではそちらの魔石も同じように、親友様に見せればいいのでしょうか?」

ソリエル様の左手をちらりと見てから、彼女のもう片方の手の中から輝く魔石が気になって、尋ねてみた。

「あ、これはダイアナちゃん用に私が選んだ魔石だから大丈夫!これは…」

オパール…ですか?」

「正解!私の魔力をちょっとだけ入れておいた特製の魔石だよ!ダイアナちゃんが使ってる魔具にぜひ装備してみて!」

…まさか、私が自由に使っても良い物だったとは。
オパールという魔石は、実は前から気に入っていて、今使っているステッキ状の魔具に新しく装備してみたいと思っていた魔石の一つだったの。
透明感のある美しい石に、光の当たる角度を変える毎に変わる反射光の色合い…虹色に煌めいて本当に美しい。この光の揺らめきを、遊色効果というらしいわ。

(それに、オパールは10月の誕生石…私、10月生まれだから余計に、このオパールという魔石はいつか欲しかったのよね。まさか、ソリエル様がくださるなんて。)

「ありがとうございます!大事に使わせていただきますね…!あと…こちらの大きな袋は一体…?」

「これは、向こうに着くまで開けちゃ駄目だよ!あと、変に魔術をかけないで欲しいな。」

持ってみると、結構ずっしりとしていて、少し暖かさがあった。
…あ、怪しい。すごく気になるのだけれど…

「…ソリエル様、中身がすごーく気になるのですが…」

「し、心配しなくても怪しいものじゃないよ!ダイアナちゃんの助けになるはずだから、大切にしてね…」

ちょっと目を逸している分、あまり説得力がないのですが。
気を取り直して!と、こほんと咳払いをしたソリエル様は、試験のことについて最後にもう一度話し始めた。

「さて、じゃあ異界の前に、最終確認ということで…試験内容とルール、禁止事項を言っておくね。とはいっても、基本的に守ってもらうこと、やってもらうことは三つだけだよ。
2年間の時間の中で、対象の教え子を中級魔術までの魔術を完璧に使える程度にまで教育する。
魔法便箋による、魔界に住む身内・友達等との連絡の取り合いは可。
期間中は、魔界へ帰ることは禁止。
この三つを守って二年後に私のところに来ることができたら、私の試練は合格!あとはレトちゃんの試練に受かれば、ダイアナちゃんは晴れて大魔女になることができるってことだね!」

「はい!絶対に条件を満たして帰ってきます!」

「ダイアナちゃん、正直、大変な試練になっちゃったことは申し訳ないとは思ってる、って前に言ったと思うけどね…君にとっては、余裕で受かると思ってるんだよね。ダイアナちゃんが優秀なのは間違いないし、そんな君の家族は皆優しくて優秀。それになんてったって、学生時代、超・成績優秀だった最強なレトちゃんがお母様だしね。」

「ふふ、そう言われると照れますね…でもそうですね、私がここまで来られたのも、みんな家族のおかげです。」

「そっかあ。ティターナ家の皆さんは仲が良くて羨ましいな!……あ、ダイアナちゃん。前に書類と一緒に届けたアレ、忘れてないよね?」

「勿論ですよ、これがないと異界できないじゃないですか!」

くすくすと笑いながら、私はソリエル様の言うアレ…入界チケットを胸ポケットから取り出した。
これが無いと、魔界人はまず異界すらできないわ。十分な魔力とこの入界チケット、そしてこのチケットを使うための専用の魔具。これらが必要不可欠。

「入界の手順や魔術もちゃんと覚えていますよ。こんなところで出鼻を挫く訳にはいきませんしね。」

「あは、だよね〜ダイアナちゃんが忘れるわけないか!」

「さて、ソリエル様!私、そろそろ行きますね。」

「……うん!そうだね。たまには私やルミカにも連絡してほしいな!」

(ふふ、お父様と同じことを言うのね…)
                                                                                                                                               
こうして少し名残惜しいけれど…ソリエル様とも別れた私は、とうとうこの地からお別れすることに。
向かう先は、堕の地区中心部の展望台!グレシアさんが住んでいる、エリゴル家屋敷の裏側に位置する建物。
魔界人もほとんどいない今、広くて魔術を展開しやすいここから異界するのがいいってオススメされたの。それに、集会所からもすぐの場所にあるしね!

「確か、人間界へ入るための呪文を唱えて魔術を展開して、そこにこの魔具を置いて、更にチケットを差し込めばいいんだったわよね。」

結構手間がかかる作業だけれど、手順は完璧に分かる。
…さぁ、いよいよ行くわよ。
深呼吸をして、私は唱えた。

「月の魔女、ダイアナ=ティターナが命ず。入界の儀式を今此処に。…人間界への扉よ、開け。




―――――――――――――――――――――――――――――――――




























「ごめん、ダイアナちゃん。私、ダイアナちゃんにはずっと……いっぱい嘘ついたね。」

謝ったって、あんなに真面目で良い子な彼女が許してくれるとは、到底思えなかった。そんなこと、馬鹿な私にだって分かる。
だから、私はこんなに卑怯な手を使っているんだ。あの子達を魔界から出してからこんなことを言うなんて。

(はぁ、こういう私の卑劣な所は、あのクソガキだった不良時代から変わっちゃいない。少しはあの頃のユーカみたいに、心優しい魔女になりたくて、今まで頑張ってきたけど…)

あの子を魔界から出した以上、もう私がやるべきことは決まってるんだ。今更、昔のことを思い出す必要は無い。

「さよなら、ダイアナ。」

展望台の上空で、大規模な魔術を使った後に発せられる眩しい光が現れる。展望台の上で異界するよう勧めたのは、あの子が異界したということをあの光を使って、各地区のあちこちにいる他の魔女たちに知らせるためだ。それを合図に、私達の作戦は始まる。
少し未練はある。でも、これが一番最善な方法だってことは、もうあのクソみたいな「堕天使」達が引き起こした異変に気付いた時から、もう分かってたことだろ?

「申し訳ないことしたね。でも、大丈夫。君なら、人間界でもやっていける。
こっちのことは、全部私達に任せておいてよ。」













――−

  ―−―−――


      ――−−―――

         
             ――−− ― ―−
                 

 

                   −   − ――−― ――






出てくる場所がおかしすぎるでしょきゃーー〜〜ー!?!?!?!?!?!?!?

月の魔女、ダイアナは哀れにも、異界した先が人間界上空であった。
だが、決して異界先の地に失敗した訳では無い。場所自体は正しく、きちんと教え子の家の周辺へ着地するようになっていた。
……が、ダイアナは運悪くかなり高い上空―分かりやすく描写すれば、目下に雲が見られるような場所に来てしまった。

(何!?私あの時のロラと同じことになってない!?あっ飛行魔術!)

飛行魔術を使えば安定できることにようやく気がついたダイアナは慌てて発動した。
…が。落下速度が落ちてはいたものの普通に地面に激突した。

「いたぁ…!」

「…hd$"!?」

「いったたたた…
……ここ、どこ?」

哀れなダイアナの目の前には、ぱちくりと目を瞬かせながら腰を抜かした少年がいた。
魔界ではほとんど見かけない、黒髪の少年を見て、ダイアナは察する。ここが人間界の「ニホン」なのだ、と。しかも、彼は慌てた様子で、魔界では使われない言語を発していた。
だが、一応確認しておくことにした。自分の日本語が通じるかどうか確認しておこう、とも思った。

「はじめ、まして。ここは、どこですか?」

そう口にした途端、糸が切れたかのように、ダイアナの身体はその場に崩れ落ちた。
慌てたように誰かを呼ぶ少年の声を遠くに聞きながら、ダイアナは自分が怖いほどに冷静であることに少し驚きつつ、魔界では浴びることのない日光の輝きを全身で受け止めていた。

































___そして、この瞬間を以て…魔界の「異変」は大きく動き出したのである。



















第一幕 「大魔女試練編」_完_




























次回より、第二幕「邂逅編」開幕。

ハノウ


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