自作の小説だが......納得いかない。どうして。
小説最高ランク : 88 , 更新: 2018/12/30 11:11:15
じゃっかんSFめいた物語を作りたかった。
で、さ。占ツクのほうでもこれ投稿してるけど...なんか納得いかないんだよね。
テーマは『百万回生きた猫』死んでは別のものになって人生を過ごす子です。ちょっと長いけど。以下、本文。
僕は百万回死に、百万回生まれ、百万通りの人生を歩んできた。
皆にとっての“死”は安らぎを意味するだろうか。はたまた絶望を意味するのだろうか。
──僕にとっては、ただの『再スタート』でしかない。
いわば、死のプロフェッショナルだ。
こんな呪われた人生に──終止符が打たれる日は、来るのだろうか。
▼▲
無愛想、ってよく言われる。
何をしても表情は変わらず、何をされても感情は動かず。
能面みたいな顔を張り付けて、ただ、存在している。
なのに最近──不思議な女に絡まれている。
木漏れ日が程よく差し込む公園のベンチ。
ここは僕の定位置だ。
「ねぇ、なんでそんなにつまらなそうな顔をしているの?」
「...さぁ、なんでだろうね。少なくとも君には関係ないことだと思うよ」
いつも道理。そんな当たり障りのない言葉で、遠回しに「どっかへ行け」と言う。
すると、女は楽しそうに笑う。
「えへへ。そんなところでのんびりしてたら、いざ空から爆弾が落ちてきたときに逃げられないよー?」
...そうか、この時代は戦時中だったか。
僕は“人から産まれない”し、世界事情についてもあまり観察してこなかった。
僕が観察するのは、“人間の営み”だけだ。
「爆弾なんかで、僕は死にません」
死ぬけど、すぐ別の世界の、別の人間として生まれるからね。
概念的には死んでないさ。
すると、女はポカン、とアホ面をして、そして大声で笑った。
「アッハッハッハッ!アハ、ハハハハ...ふぅ」
見てて気持ちのいいくらいの大笑いだった。
「そうか、じゃあ大丈夫だねっ!バイバイ!」
「うん、バイバイ」
しばらく、そんな日が続いた。
雨の日も、風の日も、雪の日も。
他愛ない会話を女の心ゆくまでしていた。
最初こそ冷たくあしらいもしたが、段々と女に興味が沸いてくる。
「...ねぇ」
「なぁに?」
「どうして君は、毎日毎日僕のところに来るんだい?」
まぁ、当然の疑問だろう。
ここはわりとひとけの少い公園だ。こんなところを通る人間は、彼女以外そうそういない。
「あの、ね。今って、戦時中じゃん...?」
彼女はうつむきがちに、呟くような声で話し出した。
「そうだね」
彼女らしくない態度に、多少だが疑問を覚える。
「私...ほら、発育いいじゃない。ほれ、ほれ」
「僕の顔に胸を押し付けるのは止めてください」
ふんわりと、鼻孔をくすぐる彼女の匂いがする。
「それでね...あの、あの......」
──戦時中、発育がいい、女性。
ああ。そういうとこか。
「つまり自分の体を売っ──」
「ストォップ!!それ以上はダメっ!」
言葉を遮られた。
もっとも、僕がそれを知ったところでどうすることもできない。
何故か、それは僕が概念的存在だからだ。
あくまで僕は背景と同等。
少し、コミュニケーションがとれる背景だ。
“そこにいる”から僕がいるのであって、“僕がいる”からそこにいる訳ではない。
──よく分からないだろう。
つまるところ、僕はそんなふわふわした存在なのだ。
僕は世界のイレギュラー。
だから、この世界には関われない。関わる力を、持たない。
僕のコレは、そういう『呪い』なのだ。
「き、君ってやつは...プライバシーの欠片もないね」
「胸を顔に押し付けながら言われても」
すると彼女は僕から離れ、
「君は私とおんなじ目をしてる」
と、言った。
「そうかな。僕は君みたいにぱっちりした目はしてないし、キラキラした瞳はしていない」
「...前言撤回。君と会う前の、私とおんなじ目をしてる」
会う前...はてさて、いったい。
「お父さんに...その、無理矢理か、体を売られて...絶望していたときの、私にそっくりだったの」
頬を赤らめ、そう言う彼女。
だが、同情する気にはなれない。ならない。
なぜなら、コレが彼女の運命であって、必然なのだから。
「生きることに。私が私でいることを許せなかったときの、私」
「...なんだ、つまり、君は死にたかったのかい?」
「こんな人気のない公園に来るくらいだよー?まともな理由で、ここなんかに来ないって」
なら──どうして?
「適当にね、道を歩いてたら君を見つけたんだ。もうどーでもいいやーって、自暴自棄になって、ね」
僕が座っているベンチの周りをクルクル歩きながら、尚も彼女は話を続ける。
「そしたらさ、こんなところに目が死んでる美少年が!」
「君の目こそ大丈夫かい?」
たははー、と、幸せそうに笑う。
「君、放っておいたら死にそうな気がしてさ。心配だから話しかけたんだっ」
「......」
「──私みたいに辛い思いをするのは、私一人で十分だからさ」
その笑みは、脆く、触れただけで崩れてしまいそうな儚さで。
しかし、僕にはとてもまぶしかった。
「僕は...さ、沢山の人を見て、沢山の営みを見て、沢山の苦しみを知った。沢山の喜びを知った」
「......うん」
今度は僕が話す番だな、と。
自然とそう思った。
「君の、底抜けの優しさは。長所でもあり、短所でもある。だからこそ、さ。肩の力抜いていこーぜ。今の君は気張りすぎている。嫌なら逃げたっていいんだ」
我ながら自分勝手なことを言ってるな、と思う。
けど、結局はこれが結論なのだ。
行動を起こすには、代価がいる。
何かを得るためには何かを捨てなければいけないように。
人生は取捨選択の連続だ。
彼女は、今の状況を受け入れてしまっている。
僕はそれを必然と言ったが、その必然を受け入れてやる義務なんて、ない。
嫌なら、自分が変わればいい。
何百年も、何千年も、何億年も、人間の営みを見続けてきた僕だから、それが分かる。
「...うん、うん!」
彼女は噛み締めるように頷き、満面の笑顔で走り去って行く。
僕はその後ろ姿をぼんやりと眺め、一つ、諦念の溜め息を吐く。
ああ、やってしまったなぁ。
数分後、何かを知らせるような放送が町に流れる。
すると、数秒もしないうちに上空からけたたましい音が鳴り響く。
僕の頭上に、黒い物体が落とされる。
重量感を感じさせる物体Xは、物凄い風圧を伴って僕の目の前に着地する。
──否、着地の数ミリ手前で、読んで字のごとく“爆発”した。
痛みを一切合切感じることなく、僕の意識は暗闇に吸い込まれる。
▼▲
はぁ、今回は、あと数年いられると思ったのに...
『この世界には関われない。関わる力を、持たない』
関わってしまったからね。
一人の少女に。
一人の運命に。
今後、彼女がどのようなことを成し、どのように朽ちていくのかは分からないが...
最後まで、見届けてみたかったものだ、と。
ガラにもなく思ったのだけれど。
ささやかな世界への抵抗も虚しく、新たな世界へと、僕は降り立つ。
僕の人生にピリオドは打たれない。
だからこそ...出来ることもあるんじゃないかな、って。そう思ったんだ。
僕の人生にピリオドは似合わない。
イレギュラーなら、イレギュラーなりの生き方を。
彼女のように、強く生きたいものだ。
未だ暗転する意識の中、そんなことを考えていた。
僕は百万回死んで、百万回生き返る。
故に、この人生に意味なんてなく。
僕が存在している意味を探して、今日もどこかで人間の営みを観察するのだった。
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2018/12/20 12:14:05 Nora 7 5
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