【短編小説】雨宿り 【2】

小説 創作 短編
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真宵村。その村がどこにあるのか、知る人は極僅かだといいます。東北地方の奥の方だ。北海道にあるらしい。群馬県と栃木県の境と聞いた。他にもいろいろな説がありますが、あるいは誰かの創造――想像の村だという話も有力です。

昔、「まよい」の「ま」は「魔」だったと、真宵村の老人が呟いたのを、水城少年は聞いたことがありました。今では「真」宵村ですが、川の名前は今でも「魔」宵川。きっと嘘ではないのでしょう。

――と、無駄話はここまでにして(真宵村の話など、読者諸君には興味ないですね)。水城少年のお話を続けましょう。雨合羽の雫君の手をとり、少年は川、もとい橋に向かって歩き始めました。その時、雫君の手が恐ろしいほど冷たいのを、水城少年は感じました。随分と前から、ここでひとりぼっちだったのでしょうか。可哀想に思った水城少年は、雫君と手を繋いだ左手に力をぎゅっと入れるのでした。

傘に雫君が入れるように、少し左寄りに動かしました。大きな傘で良かった、とここで初めて父親に感謝した少年。会話の続かない二人。少年は、少し狼狽えてしまい、雫君から目を反らしました。そんな少年を、雫君はじぃっと見つめています。

「アッ、あの!」

雫君の急な声に、肩を震わせる水城少年。それまで何を話せばいいのか悩んでいた少年は、まさか雫君から話し掛けられるとは思わなかったのでしょう。雫君のおかっぱがゆらりと揺れます。

「優雨お兄さん、ありがとう。ぼく、ずっと一人で怖かった……」

幼い子どもらしく、語尾が弱々しい雫君。水城少年は、これまで『優雨お兄さん』などと呼ばれたことはなかったのです。なんだかこそばゆいような、不思議な気持ちになっていました。

ふふふ、と水城少年が笑うと、つられたように雫君もふふふと笑います。『こだまでしょうか、いいえ、だれでも。』なんて、有名な詩人の詩を拝借するわけではありませんが、まるで二人の笑い声はこだまのように続くのでした。

さて、読者諸君はいつ橋に着くのか、気にはなりませんか。少年と雫君は、ずっと歩き続けているようでしたが、いつまでたっても橋に辿り着かないのです。呪いにでもかけられたかのように、道が延々と広がるのであります。雨が傘を打つ、ポツポツという音と、雫君の雨合羽が擦れる音。これらも延々と……。

もっとも、水城少年はあのバス停――『真宵村バス 日影ヶ丘三丁目』ですね――から時雨橋までどのくらいの距離があるのかを知らないのです。何度か、母親の運転する車で通ったことはありますが。時速60kmと分速80mでは話があまりにも違います。比べ物にはならないでしょう。

どうしようか。最初は「もう少しだよ」と雫君を励ましていた少年ですが、少年自身も疲れています。もう歩くのも飽きてくる、という状態なのです。しかし、少年の正義感はそれを許しません。雫君を送り届けると決めたからには、それを実行しなければなりません。

「優雨お兄さん、ぼく疲れちゃった」
「じゃあ、ちょっと休憩しようか。そうだ、お菓子食べる?」

雫君も同じことを考えておりました。雨で濡れているため、座って休憩というわけにはいきませんが、雫君と水城少年は少し立ち止まって歩くのを止めました。水城少年は、本来友達と食べる予定であった飴玉とチョコレートを差し出してにこりと微笑みます。

「いいの? ぼくが食べても」
「いいよ。雫君おなか空いたでしょ?」

少々迷っていたようでしたが、少年がもう一度にこっとすると、お菓子は雫君の右手の中。ぱあっと表情を明るくする雫君を見た少年は、自分まで嬉しくなりました。チョコレートを口に入れた雫君は、目を輝かせております。しかし、お菓子を全部食べてしまうと、心なしか寂しそうな顔になります。やはり家に早く帰りたいのでしょうか、少年にはそう思えました。

そして、数分後。二人はまた歩き始めます。腕時計のない少年には、今が何時なのか見当もつきません。はて、時雨橋に着くのはいつ頃か。二人の健闘を祈るほか、ありません。

***
まだまだ続きますよ((
『真宵村バス 日影ヶ丘三丁目』をコピーしたら、グー○ルマップが『この場所をマップで検索』とか出てきて笑ったw

妃有栖


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続編希望!でもこのままって言うのも好きだなぁ。

二代目北斎
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