【短編小説】ビイドロ玉奇譚

小説 短編 創作
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【前書き】
今日は私の住んでる市の秋祭りだったので。
特に意味はないし、最後ぐだぐだなので、現在0:28ですがひっそりと小説投稿します。
通知とか、迷惑だったらごめんなさい。

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祭り、と聞いてマイナスのイメージを持つ人はそうそういないだろう。大体は、楽しくて、嬉しくて……。人混みが嫌いだ、と云う人もいるかもしれないが、本当に祭りが「嫌い」 だと云う人はあまり見たことがない。

しかし、僕は祭りが怖い。祭り恐怖症、なんてものがあるかは知らないが、あったら、きっとそれだ。僕が祭りが怖い理由。それはきっと、いや、絶対に子どもの時のあの経験があるからだろう。

「おとーさーん! 早く行こうよー! いろは、置いてっちゃうよー?」

バタバタと、裸足で廊下を走る娘の足音が聴こえた。そして、僕を見つけた娘は、白い歯を見せて笑った。母ーーつまり、僕の妻に着せて貰ったらしい、桃色の浴衣と黄色い帯が良く似合っている。

今日は近所のお祭り。娘ーー彩羽は、僕の服の袖を引っ張って玄関へ向かう。きっと下駄を履くのだろう。未だ一度も下駄を履いたことがなかった筈だが、大丈夫だろうか?転んで浴衣が台無しにならなければいいが。

浮かれたような表情の彩羽。僕は彩羽と向き合うようにしてから、両肩に手を置く。そして彩羽の目を見てから、こう忠告した。

「いいかい、彩羽。お祭りで買ったラムネのビー玉は、決して覗いてはいけないよ」



『お祭りのラムネのビー玉は、決して覗いてはいけないよ』

僕は、お母さんに両肩を掴まれてそう云われた。よく意味は分からなかったけど、お母さんが真剣な顔をしていたから、覗いちゃいけなかったのだろう。

此処は何処だ?先程迄居た、神社の近くに似ているような気もするが、何かが違う気もする。

僕は藤堂彩人。10歳になったばかりだ。今日は近所の秋祭りで、お母さんと一緒に来ていた筈だったのだがーー。

確か、僕がねだってラムネを買って貰い、お母さんは仕方ない、という風に笑っていた。ラムネを売っていた屋台のお兄さんの、ラムネを開ける姿。飲む度になるビー玉が瓶にぶつかる音。凡て飲み干した僕と、空の瓶。そして取り出したビー玉。

そう、僕は彼の時ーー。

馴れない下駄を履いていたせいか、転んでしまった僕。手に握ったビー玉は、コロコロと転がっていく。追い掛けて、その手にビー玉を再び握ったとき、僕はそのビー玉を思わず覗いてしまったのだ。

ビー玉の中の、反転した世界が、映画のように映像になって現れたのを思い出した。

パチパチと、何度か瞬きをする。目に入る景色は確かに秋祭りの風景なのに、人っ子一人居ないのだ。屋台も有るものの、店員は見当たらない。先程は溢れかえっていた人々も、まるで魔法にかかったかのように消えてしまった。

僕だけが、呆然と、その場に立ち尽くしている。

自分が恐怖に包まれたのが分かった。鳥肌がたち、一瞬だけ感じた寒気。背筋も凍るような、とはまさにこのことか。現時点では、僕以外の人が消えてしまったのか、僕だけが他の場所に飛ばされてしまったのかが分からない。ただ、頭はきちんと理解をしようと頑張っていた。

兎に角、人が居ないか探してみよう。同じように残っている人が居るかもしれない。僕はそんな薄っぺらの願いを抱いて足を前に進めた。

りんご飴、たこ焼き、お好み焼き。フランクフルトにわたあめ、チョコバナナ。暖簾に書いた美味しそうな食べ物の名前と、それを作るらしい機械はあるが、やはり人は居ない。

『お祭りのラムネのビー玉は、決して覗いてはいけないよ』

お母さんの声が、脳内で再生される。リモコンを握って、再生釦を押したつもりはないのに。勝手に再生されるのだから、脳内の再生機器は壊れているらしい。

ビー玉を覗いたのが悪かったのか。でもあれは仕方ないことだったのだ。別に故意に覗いてみようと思った訳ではない。

「少年、何処から来たんだい?」

大人の女性らしい声。後ろから聴こえた声に振り向くと、狐のお面を着けた人が立っていた。今迄居なかったのに、何処から来たのだろう。「何処から来たんだい?」なんて、訊きたいのは此方だ。

狐のお面の女性ーー多分、女性であってる筈だーーは、白い浴衣のようなものに、紅い帯を締めていた。帯と同じ、紅い番傘に、やはり狐のお面が目立つ。

「僕、ビー玉を覗いて……」

「フム、ビイドロ玉をな……。ソリャア怖かったろう、少年」

声は女の人なのに、随分と昔の人のような喋り方をするな、と思った。何だか声と言葉がミスマッチのような気がしたのだ。女の人は、歳は多分お母さんと同じかもう少し若いか位なのに。お母さんは「怖かったろう」なんて云わない。「怖かったでしょう」だ。

「あの、僕……」

「少年、其方は此処に来るべき人間では無い。今すぐ妾が元の場所に戻してやろう」

女の人は、番傘をくるりと廻した。特に意味は無いらしい。そして何処から出てきたのか、ビー玉を僕に渡した。

「ホレ、このビイドロ玉を覗くのじゃ。大丈夫、何も怖くは無い」

狐のお面は相変わらず表情を変えなかったが、お面を着けた女の人は笑っていたような気がした。

「あの、あなたは何故此処に……」

「少年、早く帰らねば、一生戻れなくなるぞ。帰るなら今じゃ」

ビー玉は、紅い色。女の人の帯と番傘と、同じ色だ。紅い色だが透明で、覗けば景色が見えそうだ。僕は女の人にお礼を云ってから、ビー玉を覗いた。ビー玉には、反転した狐のお面が見え、鳥居が見え、屋台が見え、そして消えた。



「どうして?」

「ビー玉を覗いてしまうとね、反転した世界に連れて行かれるんだ。反転した世界には人っ子一人居ない。そんな世界に行くのは嫌だろう?」

「うん、彩羽は皆が居る世界がいい」



フム……無事に戻れたようだな。

反転した世界には、妾一人でいい。

ーー最初に、紅いビイドロ玉を覗いた、

妾一人でいい。

妃有栖


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もっと乗れもっと乗れ~!(すみません(( )
取って!取ってくれなくても剥ぐ!!((



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