落第

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最高ランク : 5 , 更新： 2020/10/21 15:11:51

落第

出て行った君は泣きそうな顔をしていた。意地っ張りでいつも泣かない君が嫌いだった。泣くなら泣いてしまえば善いのに。

確かに君は優しかったんだよなあ。マイメロばっかり詰め込んだピンク色の部屋で、「痩せたいなあ」って言いながらお菓子ばっかり食べてた君が好きだった。言っただけで満足するようなところが好きだった。

だけどさ、僕はもう君の可愛い我儘を笑顔で聞いていられなくなったんだよ。僕はあんまりに弱すぎて、恋人失格だったんだ。ごめんね。君は何にも悪くないんだ。全部悪いのは僕だから、全部僕になすりつけて君は次の恋に行けば善い。それで君の気が晴れるならそれで善い。悪者は僕だけで善いんだから。
でもね実は、僕の一番好きなものは、大切にしたいものはちゃんと君だったんだよ。なんて言ったってもう、信じてくれないし気づいてくれないだろうな。

「一口頂戴よ」っていつも、僕がベランダでセブンスターを吸ってると欲しがった。僕はその上目遣いが好きだった。「あげないよ」そう言ったらいつも拗ねる君が好きだった。僕がリビングに戻ったらさっきの不機嫌の埋め合わせみたいにお腹に抱きついてくる甘えん坊な君が好きだった。

やっぱり僕は、君を受け止めるには若すぎたらしい。君のヤキモチを笑顔で受け止めてやれなくてごめんね。恋人失格だと罵ってくれよ、最低だと泣いてくれ。弱っちい僕は、君が一番好きだったんだけど、「嘘つき」って言って笑われるかな。でも善いよ、信じてくれなくたって。

君は短いキスが好きだったね。君がしてくれるキスはいつも短くて、いつも足りない。でもそんなキスももう居ない。

「大好き」って笑う君を見ていられなかった僕は意気地無しなんだよ、きっとね。

出て行った君は泣きそうな顔で笑ってた。泣かない君が嫌いだった。泣かせてあげられなかった不甲斐ない僕が嫌いだった。